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高森明勅
2015.9.1 06:48

「桑原、桑原」について

先にブログで「桑原、桑原」という言葉を遣った。

ところが、ピンとこない人もいるらしい。

まさか、もはや死語になっているのか?
と不安になり、手近の辞書を捲ると、ちゃんと出てくる。

くわばら(桑原) 落雷を避けるためにとなえるまじないのことば。
また、
いやなことや不吉なことをさけるためにとなえるまじないの
ことば

ふつう『くわばら、くわばら』と2度続けていう」
明鏡国語辞典 第2版)と。

でも、なぜ「桑原」がそんな“まじない”の言葉として遣われるのか。

江戸時代の小野高尚『夏山雑談』(寛保元年=1741年)には、
こんな解説がある。

桑原は元、菅原氏の所領で、平安時代の延長年間に、
内裏に菅原道真の怨霊の祟りによる落雷があって、
貴族らが死傷する惨事があった時や、その後、度々、
雷が落ちた時にも、この地には一切、雷の災いがなかった。

コレニ因(ヨリ)テ、京中ノ児女子、いかずちノ鳴ル時ハ、
桑原、
桑原ト云ヒテ呪シケルトナリ」と。

これは勿論、俗説だが。

その源流を
「桑を聖樹とする中国の極めて古い信仰」
に由来すると見る、
文化史的研究もある(石田英一郎「桑原考」)

その当否はともかく、この言葉がかなり古くからあったのは、
謡曲の「道成寺」
室町時代の能役者、観世信光〈1434年から1516年〉の作か)
などに、既に見えている事実からも分かる。

その古い言葉を、私などは今も、
殆ど無意識に口にすることがある。

最近の若い世代の人たちはどうなのか。

私がどんな時に口にするか、って?

そんなこと、家内の手前、言える訳がない。
って、
言っちゃったか。

桑原、桑原。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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