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高森明勅
2015.2.20 01:00

五輪招致、やはり陛下は「政治利用」をご懸念

やや以前のことだがー。

平成25年9月7日。ブエノスアイレスでのIOC総会で、
日本の五輪招致の説明(
プレゼンテーション)に先立ち、
高円宮妃久子殿下が東日本大震災の復興支援への感謝のお言葉を、
優雅に格調高く述べられた。

妃殿下は降壇後、そのまま会場を後にされた。

これは皇族が直接、五輪招致活動に関与しているとの
印象を避ける為だ。

妃殿下のご存在が結果的に、
投票行動に頗る重大な影響を
与えたとしても、
皇族が自ら招致活動に関与されるのは、
差し控えねばならなかった。

ところが当時、安倍政権は五輪招致を成功させる為に、
強硬にそれを求めた。

宮内庁は「皇室の政治利用」を阻む立場から、それに抵抗。

結局、上述のような形で、妃殿下にお出まし戴くことになった。

当時の風岡典之長官は「
招致活動の一環と見られかねない懸念もあり、
苦渋の決断だった」
と語り、
「両陛下もご案じではないかと拝察する」と付け加えた。

これに対し、菅官房長官は
宮内庁長官の立場で両陛下の思いを推測して言及したことは、
非常に違和感を感じている」と厳しく批判。

また、保守系知識人の中には
「久子さまのスピーチは『皇室の政治利用』
とは言い難い。
…ギリギリのケースの前例と考えるべきだ」(
八木秀次氏)などと
弁護する発言も。

無論、妃殿下は陛下のご懸念を踏まえ、
十分な配慮のもとに振る舞われた。

だから、政府の強い要請にも拘わらず、
決して皇族としての節度を越えたものにはならなかった。

しかしそれは、難しい場面で、
妃殿下に極めて賢明にご対処戴いたから。

政府の要請が妥当だったとか、
これを「前例」
にして良いという話では、全くない。

現に陛下ご自身、同年のお誕生日に際しての記者会見で、
次のように発言されていた。

「今度の場合、参与も宮内庁長官始め関係者も、
この問題が国政に関与するかどうか一生懸命考えてくれました。
今後とも憲法を遵守する立場に立って、事に当たっていくつもりです」
と。

これは、宮内庁長官を批判した菅官房長官を叱り、
たしなめたに等しい。

そもそも、
宮内庁長官が陛下のご意思を勝手にデッチ上げるような
発言をする
、と決めつける方がどうかしている。

直接、この種のご発言をなされない、
陛下のお立場を理解しているのか。

先頃、時事通信社の解説委員、田崎史郎氏が独自の取材により、

この件についての陛下のご真意は、以下のようだったろうと、
結論付けた。

「個別の政策案件にかかわってはいけない。
五輪招致を国民が望んでいるにしても、招致が実現したら
政権にプラスになるし、
実現しなかったらマイナスになる性格を
帯びている。
また、
国際間で争われている問題に皇室がかかわるべきではない」と。

これまでの陛下のご言動も勘案して、ほぼその通りだろう。

やはり、政府のごり押しは、
陛下のご意思に背いていたと言う他ない。

田崎氏も
少なくとも宮内庁長官が陛下のご意思を無視して
発言するはずがな
い、と思った方がいい」と述べている。

五輪の東京開催という大きな成果を得る為だからと言って、
皇室の政治利用が許される訳ではない。

それは、尊厳かつ公正であるべき皇室を、特定の政治的意図の
「手段・道具」
として扱うことを意味するからだ。

関係者には改めて猛省が求められる。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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