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高森明勅
2015.1.6 05:40

天皇陛下のメッセージ

私は年来、様々な場で、
国民はもっと天皇陛下はじめ皇族方のお言葉に
謙虚かつ虚心に耳を
傾けるべきだ、と訴えて来た。

それは、美辞麗句を並べた役人の作文なんぞではなく、
制約されたお立場にありながら、
ご自身のお気持ちやお考えを伝えるべく、入念に推敲を重ねられた、
皇室からの貴重なメッセージに他ならないからだ。

近頃はその事実に気付く人が、
少しずつでも増えているのではないか。

特に、今年の新年に当たっての天皇陛下の「ご感想」は、
静かに反響を広げているようだ。

中でも戦後70年にちなみ、以下のように述べておられる箇所は、
取り分け注目を集めるだろう。

「この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、
今後の日本のあり方を考えていくことが、
今、
極めて大切なことだと思っています」と。

ここで、「“十分に”学び」とされ、
「“今”、“極めて”大切」とされているのは、
殆ど異例と言ってよいほどの“強い”ご表現。

陛下の切迫したお気持ちがストレートに現れている。

更に、この年頭のご感想を深く受け止めるには、
昨年の天皇誕生日でのご発言と重ね合わせる必要がある。

陛下は、そこで「先の戦争」に言及しつつ、
次のように締め括っておられる。

これからの日本のつつがない発展を求めていくときに、
日本が世界の中で安定した平和で健全な国として、
近隣諸国はもとより、
できるだけ多くの世界の国々と共に支え合って歩んでいけるよう、
切に願っています」と。

「近隣諸国はもとより」との句が、わざわざ挿入されているのは、
軽視できない。

「支え合って」というのも、
上っ面な友好など手垢の付いた語とは違って、
含蓄のある言い方(少なくとも、我が国が他の国々と
支え合って歩んでいける」為には、他国を支える意思と能力、
つまり一人前の国家としての自立が前提となろう)。

最後の「“切に”願っています」は、極めて重いご表現だ。

陛下は「日本のつつがない発展」に重大な懸念を抱いておられる。

そこで、政治的領域に踏み込むのをギリギリ避けながら、
懸命に道義的道徳的な「警告」を発しておられるー
と拝すべきではないか。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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