切通理作氏の『本多猪四郎』を読み終えた。
これはわしが保証するが、凄い本だ。
オタク世代の書き手が持つ、主観的すぎる論考を突き抜けて、
完全に普遍性のある大人の評論に到達している。
導入部で次々見てない怪獣映画について語られる記述では、
「またかよ、見てないからイメージ湧かねえよ」と思って
結構苦痛だったが、その先入観を第五章の本多の戦争体験から
どんどん打ち破られていく。
そして戦争体験がいかに本多の創作に関係しているかが
見えてきて、実に面白い。
「大東亜戦争」とあっさり書いてしまう理作の覚悟も見事。
そこから先は戦争の話でなくなっても、やはり原爆に対する
本多の感覚や、科学に対する考察などが、興味津々で楽しめる。
戦争孤児・浮浪児への差別が戦後の日本人に無邪気に存在
していたことが驚きだし、その感覚をフランケンシュタイン
に投影していたのも凄い。
iPadに入ってないか調べたが、なかったので悔しい。
支那における村民と日本軍の関係性もまさにこの通りだろう
と納得するし、戦争で一番損をするのは大衆という視点が、
怪獣映画の逃げ惑う大衆に繋がっているのも納得だ。
モスラが単なる蛾の幼虫ではなく、蚕だというのも嬉しくなる。
マンネリに対する勝新太郎の言葉も、腑に落ちた。
ここのところ『座頭市』ばっかり見ていたから、『ゴジラ』も
同じなんだろう。
わしがもう一度『新戦争論』を描く気持ちになった理由と
通じている。
誤解をただし、さらなる思考の深まりを伝えていくためには、
何度でも同じテーマに挑戦しなければならないのかもしれない。
『本多猪四郎』実に面白い本だった。
とりあえず『メカゴジラの逆襲』は見よう。
『マタンゴ』も見たいが、iPadに入ってないんだよな。