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高森明勅
2014.7.24 09:00

小林よしのり氏にしか書けない靖国神社論

7月22日、大学に届いていた小林よしのり氏の近著
保守も知らない靖国神社』(ベスト新書)を受け取る。

ご好意に感謝しつつ、一気に拝読。

かつて漫画『靖国論』を刊行して人々にインパクトを与えた小林氏が、
改めて同じテーマで活字だけの書き下ろし本を上梓されるからには
当然、並みの靖国本とは一味も二味も違うものになると踏んでいた。

実際に読んでみると、期待を遥かに上回る内容。

初心者にも分かりやすい、実に平易な書きぶりながら、
中身のレベルは極めて高い。

コンパクトな新書の中に、靖国神社を巡って今、論及すべき課題を、
殆ど漏れなく取り上げ、
しかも深く論じておられる。

その周到な目配りと、鋭角的な追及のさまは、
氏のこのテーマに対する取り組みの「
本気度」を示す。

まず大前提として、英霊への「奉慰顕彰」という
靖国神社の原点に立脚。

その上で、「なぜ黒船来航以来の霊が祀られるのか?」
「『太平洋戦争』と『
大東亜戦争』の歴史観は正反対」など
最もベーシックな問題点から説き起こす。

身元不明又は引き取り手のいない戦没者の遺骨を納める
千鳥ヶ淵戦
没者墓苑との対比はもとより、
靖国神社境内の鎮霊社や防衛省のメモリアルゾーンなど、
しばしば見逃されがちな論点についてもカバー。

これまで曖昧にされて来たアメリカのアーリントン墓地との
相違」を明確にされたのは、本書の重大な貢献だ。

安倍首相の靖国参拝とアメリカの「失望」を巡る分析は、
そもそも本書執筆の最大のモチーフだったはず。

そこから「『靖国問題』は新たなステージに突入した」との
本書の中核となる命題が導かれる。

更に靖国論とTPP反対論がきっちり繋がる辺り、
まさに小林氏ならでは。

ただ靖国神社さえ守れば良いのではなく、
靖国神社に祀られる英霊が守ろうとしたものを守る、という姿勢だ。

どこまでも予断を排し、ゼロベースで一つ一つの論点と
真正面から対決。

全編、ごまかしのない誠実で勇気ある論述に貫かれている。

現在、靖国神社について、思想的にここまで掘り下げて語ることが
出来るのは、
甚だ僭越ながら、私の狭い知見で敢えて言えば、
知識人や政治家をひっくるめて、せいぜい数人位ではないか。

しかも「戦争ができる国」と「好戦的な国」の峻別を踏まえた、
靖国とは日本を戦争できる国にするための神社」という
大胆かつ正当な断定は、
ただ一人、
小林よしのり氏だけがなし得たことだ。

本書は、切れば血が出るような実践的な動機から、
靖国神社を巡る「新たなステージ」に相応しい、
新たな議論の枠組みを包括的に提起している。

小林氏の意見の全てには賛同出来ないという人も、
靖国神社について少しでも真面目に考えるつもりなら、
この本を避けては通れないだろう。

私自身、省みて学ぶところが頗る多かった。

なお、本書の論旨や値打ちには関わらない、
ごく微細な事実関係を一点だけ指摘させて頂くと、
昭和48年の「
靖国法案」に対し、
神道の伝統による祭祀を否定するとして、
当の靖国神社が反対の立場だった事実に関連して、
当時の宮司を松平永芳氏とするが(276〜7ページ)、
松平氏の宮司就任は本書90ページに正確に記述されているように
昭和53年である(ちなみに退任は平成4年)。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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