勉強熱心な社会人の若い女性2人。
1人は、奇特なことに本居宣長に興味があるという。
もう1人からは、近現代史についての良書を尋ねられた。
そこで宣長については、貧しい書斎から村岡典嗣と小林秀雄の著書
(書名はともに『本居宣長』)を貸すことにした。
村岡の宣長研究は、アカデミックな方面では「古典」としての
揺るぎない地位を得ている。
小林の場合は、思想的な宣長論の最高峰だろう。
どちらも、初心者には少し歯応えがあり過ぎかも知れない。
しかし、チラッと覗いてみるだけでも、意味はあるはずだ。
近現代史については、いささか風変わりな本選びを。
林房雄の『大東亜戦争肯定論』を薦めることにした。
同書は単なる「大東亜戦争」論ではない。
書名のイメージとは違い、型破りで挑発的な近現代史論になっている。
私がまだ中学生だった頃に読んで、
その「東亜百年戦争史観」に目が覚めるような新鮮な印象を受けた
記憶が、今も新しい。
もともと『中央公論』に連載され、その後、様々な形で出版された。
我が書棚には今、番町書房版と夏目書房版がある。
その他、別に2種類くらい持っていたはずなのに、見当たらない。
親切な解説がついた夏目書房版を貸すことに決めた。
ずいぶん昔の本で、当然ながら色々と批判も出来る。
しかし今も十分、広く読まれるに値するし、
色褪せぬ魅力を湛えた書物だ。
どこかの出版社が、また刊行してくれないかと思う。
意外と、商売としても成り立つのでは。
そう言えば、展転社から保田與重郎の
『ふるさとなる大和ー日本の歴史物語』(1500円+税)が
新しく刊行された。
保田については以前、講談社から全集が出たし、新学社の文庫もある。
戦後暫くは、全く無視抹殺された格好だったものの、
近来、じわりと再評価されつつあるようだ。
それでも、その文業の偉大さに比べたら、
保田の名前はまだまだ、余りにも知られていない。
そうした中で、展転社は保田の異色の文章に目をつけた。
彼が教材として、子供向けに書いた文章だ。
この着眼は見事。
これまで全集以外では、殆ど読まれたことのない文章で、
しかも保田にしては珍しく、極めて平易だ。
その上、そこで取り上げられているのは、
「神武天皇」「日本武尊」「聖徳太子」「万葉集物語」という、
注目すべき4テーマ。
「(これらの)課題の選択は偶然ではなく、
作者の歴史観・文学観を表現している」
「それぞれ日本精神史の重要な節目を示し、子供文学でありながら、
1つの壮大な文化論を展開している」(ロマノ・ヴルピッタ)
ーーと評されている通りだろう。
従ってこの本は、古典や歴史への上質な「誘い」であるばかりでなく、
絶好の保田入門書にもなり得ている。
編集者の志が伝わってくる好著。
私自身は学生時代、この本の元になった教材の小冊子を発行した、
全日本家庭教育研究会の東京本部にまで足を運んで、
冊子の『神武天皇』などを手に入れ、宝物のように大切にして来た。
そうした個人的な思い入れからも、今回の出版は嬉しい。
BLOGブログ
前の記事へ靖国神社秋季例大祭、しかし、首相の姿は…
皇后陛下の立憲主義へのご見識次の記事へ