ゴー宣DOJO

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切通理作
2013.10.6 03:14

『風立ちぬ』に立ち合いたい

 
 

 小林よしのりさんから「今度のゴー宣道場で、『宮崎駿の<世界>』販売してもいいですよ」とメールを頂きました。

 

 左のアマゾン欄で紹介いただいてる拙著『宮崎駿の<世界>』は、2001年に『千と千尋の神隠し』までの内容で新書として初刊行、2008年『崖の上のポニョ』の時にそこまでの作品について増補した文庫版を刊行しました。

 いつかその続きを書きたいと思っていましたが、『ポニョ』の次につけ加わるのが『風立ちぬ』一作では、まだ時期尚早と思っていました。

 ところが宮崎駿の、突然の引退宣言。

 僕の方へも読者の方から「『風立ちぬ』まで含めた完全版を読みたい」という声が寄せられるようになりました。

 

 そこで、これまで『宮崎駿の<世界>』の版元であった出版社に連絡してみました。編集担当者は既に定年退職していましたが、代わりに応対してくれた人によれば、まだ文庫版が売れ残っているので、さらなる増補は難しいとのこと。

 

 そのやり取りの中で、僕の「書きたい」欲はかえって燃えあがってしまいました。

 最後の作品になるかもしれない『風立ちぬ』に取り組まずして、このまま『宮崎駿の<世界>』を尻切れトンボのような印象のまま終わらせたくない。

 

 しかし、版元を変えるにしても、知っている編集者のツテをたどってモタモタやっている内に、時機がどんどん過ぎていってしまうのではないか……。

 

 そこで僕は、物書きを生業として初めてのことですが、ある試みをやってみようと思い立ったのです。

 

 ツイッターとフェイスブックで、この本を出してくれる人はいないか、呼びかけてみようと。

 

<拙著『宮崎駿の<世界>』を、『風立ちぬ』論まで読みたい、僕に書かせたいと、手を挙げて下さる出版人の方、いらっしゃいませんか? 相談に乗ってくださいませんか?>

 

 917日の夜10時過ぎ、僕は上の呼びかけをしました。

 するとすぐにリツイートしてくれたり「いいね!」を押してくださる人がいました。もちろんうれしかったですが、しかし自分が直接「出したい」と手を挙げるとなると、会社の事情もありますし、また問題は違うだろうなと思いました。その晩は直接「出したい」と言ってくれる人はおらず、深夜になって僕は眠りにつきました。

 

 世の中に『風立ちぬ』について語りたい人はいくらでもいる。宮崎駿についてもしかり。それは僕でなくてもいいだろうな。そういう思いがベッドの上の自分を包みました。

 

 一人も手を挙げる人がいなくても、それは覚悟でやったことです。誰に恨みを言うつもりもありません。

 小林よしのりさんは「サントリー学芸賞まで貰った切通はもっと自信を持って『宮崎駿は自分が語る』と言え」とおっしゃってくださいましたが、賞を貰っても商売にならなければいつかは忘れられるのもまた、普段から小林さんがおっしゃっている商業原理に照らし合わせても間違っているわけではない。結果は結果として受け止めるつもりでした。

 

 しかしもし手を挙げてくれる人が、しかも複数いたら、けっして選ぶことなどはせず、その最初の一人と仕事をしようと思いながら眠りにつきました。

 

 ところが翌18日の朝、目をさましてみると、ツイッター、フェイスブックのダイレクトメッセージ、メールと、複数のツールでそれぞれ「出したい」と手を挙げる連絡をしてきてくださる編集者の方がいることがわかり、誰が先で誰が後という判断が非常に微妙になってしまったのです。

 これはまさに嬉しい悲鳴でした。

 

 そこで早速「出して下さるという人から連絡ありました」と、朝のうちに「公募」を打ち切るツイートとフェイスブックの書き込みをし、その時点で連絡下さった方とは、他の人からも連絡があったと断った上で、その上でもしよろしかったらと、全員の方とお会いすることにしました。せっかくの機会なので、一度ご挨拶したかったのです。

 

公募を打ち切った後も何人かの方からご連絡を頂き、こちらの皆さんには事情を説明するメールを返させて頂きました。

 

 最終的に出す方向になったのはもちろん一社ですが、どうしてそちらに決めさせて頂いたのかと言うと、担当の人が、なんと18日の朝、僕の住んでいる場所の最寄り駅まで既に来ていて、そこから電話をくれたのです。

 

 「用事のついでに来ました。もしお時間ありましたら」と言い添えながら。

 

 もちろん、まずメールなりでアポイントメントを取り、日時を決めてお会いするのはきわめてまっとうな手順であり、そこになんら欠けているものがあるわけではありません。お互いの事情があるのも当然です。

 

 しかしその電話が、自分を落ち着かせようと心の回路を半ば切っていた私に、瞬間的に息を吹き込んでくれたのもまた、事実なのです。

 

 その後、こちらゴー宣道場のブログでアマゾンでの販売のリンクをしてくださった効果だと思うのですが、現時点での一番新しい版である文庫の『宮崎駿の<世界>』の方も、たちまち在庫切れとなってしまいました。

 

 そんなわけで、『宮崎駿の<世界>』は次回道場の会場では販売出来ません。しかし近い日に、『風立ちぬ』まで含めた完全版として、皆さまの前に再々登場する予定です。

 

 そしてその前に「思想的に相容れないのではないかと思われる小林よしのりが『風立ちぬ』と現代に対峙する」歴史的瞬間に立ち合います!

 

 

 きっとその体験は、僕の本の内容にも大きな波を立てるでしょう。

 

次回第38回ゴー宣道場URL画像


テーマ「『風立ちぬ』から現代を考える」


平成25年10月13日(日)午後1時 から開催。
第一部はニコニコ動画で生中継されます。

 

 

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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