9月25日、産経新聞の依頼により名古屋で
「日本神話の魅力」と題して2時間の講演。
帰宅してみると、小林よしのりさんから新刊の
『AKB48論』が届いていた。
いつもご配慮下さり、ありがたい。
やりかけの仕事を片付けて早速、どんな作品かちょっと覗いてみる。
じっくり読むのは後日、改めて時間を作ってから、
と思っていた。
ところが、このところ睡眠不足気味なのに、
ぐんぐん引き込まれて、止まらなくなった。
結局、一気に読了。
読み終わったのは深夜だ。
でも、眠気も吹き飛んでしまう
(早朝から愛犬むーすけの散歩があるのだが)。
とにかく、面白い。
これは作者の小林さんご自身が、
AKB48に「嵌まった」自分をプロの表現者として、
リアルかつシビアに対象化し、客観視されていることを示す。
そうでなければ、
他人が読んで面白い作品なんて描けるわけがない。
だから、この作品はファンじゃなくても、
独立した作品として多くの人が楽しめるはずだ。
かつての『天皇論』と同じように、
予備知識が全くなくても読める間口の広さがある一方、
読者はいつの間にかディープかつコアな領域にまで
連れ込まれるという経験を味わうだろう。
枝葉は見事なまでに切り払っている。
交流のある秋元康氏さえ、
必要最小限しか登場の場を与えられない。
評論家たちの発言なんてほとんど無視。
その代わり、身近に接したメンバーの女の子たちの素顔が、
優しさに満ちた筆遣いで、ふんだんに描かれる。
これが「悪魔」のように恐れられた小林よしのりの作品かと、
驚く人がいるかもしれない。
だがむしろ、この優しさこそ、
小林さんの「素顔」に近いだろう。
もちろん、アンチに対しては容赦しない。
そこまで言うかと思うが、
「地獄に堕ちろ!」「クズ」等と罵倒している。
更に、恋愛禁止ルールへの批判を徹底的におちょくった
第12章の辛辣さといったらない(やっぱり悪魔?)。
この作品は、AKB48への渾身のオマージュを描き上げることで、
現代日本への厳しい批判の書になり得ている。
「夢を追うための競争原理による負荷なら、
主体的に引き受ける覚悟を、少女たちは持っている!
今どきの大人より、
少女たちの方がよっぽど勇気も覚悟もあるのだ!」
という第11章の決め台詞は、
その辺りの消息をストレートに表現しているだろう。
読了後、一番印象に残っているのは、
第13章「神対応と塩対応」
(タイトルだけ見た時は、何のことやらさっぱり分からなかったが)。
台詞では、自民党の石破幹事長が
「自分の時代はキャンディーズだった(過去形)」と
発言したのに対して、
「わしの時代はAKB48だ!!(現在形)」と断言しているのが、
いかにも小林さんらしい(ちなみに小林さんは石破氏より歳上)。
社会現象にまでなったAKB48とは何か、
ファンたちは何故「嵌まる」のかを知りたいという、
軽い気持ちからでも一読すれば、
予想以上のものを受け取ることが出来るはず。
脇道の些細な点まで全て私と同じ認識ということでは勿論ないが、
小林よしのりとAKB48という誰も予想し得なかった
「出会い」から生まれたこの作品は、
純然たる娯楽としても、
良質な批評としても、
本気(マジ)でストイックな
少女たちに捧げた本心からの讃歌としても、
広く読まれて欲しい。