今は亡き国分隆紀兄の詩集
『春のかぎり』(昭和54年)の、
兄の志と心ばえを偲ばせるいくつもの作品の中から、
ひとまず2篇だけ、掲げておく。
敬愛してやまなかった兄への、せめてもの弔いとして。
海鳴り
血と鉄の交るあたり
かつて火焔(ほのほ)を吹き 尽きた命は
かへらぬ海の墓標となり
はや青白き魚の棲栖(すみか)となつたといふ
たゆるなき海鳴りよ あれは
雄叫びか はた女のむせびか
八月の砂に埋めし剣は錆び
血よ うなぞこまで凍りてあれ
暗いよどみを刺すやうに
海はその牙をとぎ
荒ぶる風は高鳴り…
時は黄昏
茜雲がひとすぢ
追憶のやうに線をひく
幻花
春風に誘はれて白い花が舞ふやうに
少女よ おまへはやつてきた
私の胸に ひとしきり
明るい陽ざしが射すやうに
若草が風に吹かれてそよいでゐた
白い雲がふたりの思ひを過ぎてゆく
僕らのしるす物語(ロマン)のなかで
おまへは かつて誰だつたのか
…泣き笑いのやうな顔をして
おまへは そつとうつぶせる
淡い光の中へ
何もかもわかつてゐた
おまへは幻だと
私は幻だとー
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