ゴー宣DOJO

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切通理作
2012.7.30 00:29

「わしズム」原稿のホントとウソ

僕は「わしズム」31号『真夏のまなざし号』では「震災後に作られた映画のホントとウソ」っていう原稿を書かせて頂きました。

3・11以後、緊急事態とばかり、映画に無理やり「震災」を取り入れる・・・・・・そういう映画がいっぱいありました。被災地を聖地とまつりあげる映画の氾濫にお尻がムズかゆくなってしまって「それで同時代はホントに描けているのか?」という疑問が生まれたところからスタートしている原稿です。
あの未曽有の大震災さえ、お決まりの「文法」が作られてしまう。そこを突き抜けるには?・・・・・と。

同じ号に載っている浅羽通明氏の文章『願い事は何ですか?』を読んで、
論稿の前提となっている現状意識が、こうも正反対なのかと
驚きました。

読者のみなさんには、両者の違いから自分の立ち位置を
見つけてもらっても面白いのかなと思いました。

僕の認識は、
震災と放射能被曝はもちろん、
景気の問題でも、
多くの人が以前よりも
大なり小なりそれまで持っていた安定や富が失われてゆく
時代を生きていて、それはもう、元通りには
決して回復できない・・・・・・というものです。

でもそのなかでも、人間は生きていくしかない。
ましてや映画はいつの時代も夢を紡がなくてはならない。
それも空疎な夢ではなく、心情的にはある程度のリアリティ
を持たせながら。

「いまよりさらに大きい夢を持つ」なんていう
まさにいまの時代にそぐわないことに
リアリティを持たせるにはどうしたらいいのか・・・・・・
ということの実践を、たとえば『宇宙兄弟』という映画に見出したのです。

しかし浅羽氏の論稿は、
いまの物語に出てくる夢は原状回復の夢ばかりで
もう一歩プラスになるようなものがないと
いうところへの問題提起から始まっている。

僕はそもそも、「物語」というものがそれ自体、
欠損からの回復であり、
いまも昔もそれが王道だと思っていたので
驚きました。

アニメや特撮での主人公の英雄的行動だって、
昭和の時代では平和を乱す悪との対決であり、
視聴者の側は既に得ている日常を
回復するまでの物語でした。

多すぎた人口を減らすという
仮面ライダーの敵ショッカーの目的がそうであったように
「いまの世の中間違ってるから直そう」という
目的を持っているのは悪と呼ばれる組織の方であり、
ヒーローが願う「世界平和」とは、具体的にはそういう
組織を潰すことだけでした。

それは、主人公の夢が「肉親の命を救う」といった個人的なものに変わったようにみえるいまも同じである・・・・・・
と僕は思います。

昔の、まだ個人よりも世界の「平和」を回復するための
ヒーローが活躍する作品だって、いまある安定が
「失われてしまうかもしれない」という不安が
どこか根にあったのではないかと思うんです。

しかし浅羽氏はそういう風には見ない。
震災だ放射能だと言っていても
それは一部の人が騒いでいる「例外的不幸」
であり、多くの一般人を覆っているのは
むしろ「埋めるべき欠損」がないということ
なのである・・・・・という認識です。

浅羽氏は論稿の最後で平成の不況による
低成長がより大きな夢を持ち得なくなった
理由と書いていますが、

この、「埋めるべき欠損」がないということ
自体は、氏自身書いているほどには
今も昔も変わってないと思っているのでは
ないでしょうか。

僕には、氏が、
「どの道、世の中も人間も変わらない。
たとえこの世界が滅びるほどの深刻な事態が
起きたとしても、人々はその日を迎える直前まで、
それを『例外的不幸』と捉え、埋めるべき欠損がないということ
の方にリアリティを感じ続けるに違いない」
と言っているように思えてならないのです。

そして、それは実は真実かも・・・・・
とさえ思うのです。

言ってみれば、僕の論考は、
時代の当事者としての
「人を傷つけたり、ウソをついた自分を引き受けても
夢を語り、立ち上がる姿」への
共振でしたが、

浅羽氏のそれは、
時代の外側に立ち、
いつでも人がそう行動するであろう
ありかたを見つめる・・・・・
というものだと思ったんです。

せっかくだから、
読んでくれた皆さんには、
リサーチがてら、
その辺のことを
どう思ったか
知りたいですね。

多くのものが失われていく一方の中で
指針を得ようとしている自分。
何も欠損がなく、むしろそこに焦がれる自分。

・・・・・・どちらがあなたの等身大の姿なのですか?

もちろん「どっちも自分だ」という
答えもアリかと思います。

道場掲示板でも、
ツイッターでも
あるいはどこかで偶然お会いしたら
教えてくだされば
幸いです。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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