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高森明勅
2012.7.6 07:48

第6回皇室典範ヒアリング、八木秀次氏への疑問

7月5日、政府は6回目の「皇室制度に関する有識者ヒアリング」を実施した。

この日招かれたのは、八木秀次氏と所功氏。

新聞報道を見る限り、八木氏の意見には大きな疑問がある(所氏にも若干、見解を異にする箇所があるものの、今は立ち入らない)。

まず、「『皇統』とは『男系』のこと。

初代・神武天皇の男系の血筋を純粋に継承していることが天皇の正統性だ」という。

男系のみが皇統、と断言してしまっている。

ならば氏が従来、「正直に言えば私とて、女性天皇に絶対反対というわけではない。

…万策尽きた場合には女性天皇も女系天皇もやむを得ない」と述べて来たこととの整合性は、どうなるのか。

ヒアリングでは、自分の本当の考えを「正直に言」わなかったのか。

もしヒアリングでも「正直」に述べたのであれば、氏は「皇統」が断絶しても「やむを得ない」と考えていることになろう。

それが、氏の「正直」なホンネなのか。

ちなみに、第3回ヒアリングに招かれ、「男系」重視の立場を打ち出された百地章氏は、ご著書の中で
「万一の場合には、皇統を守るために、女帝さらには女系の選択ということもあり得る」とされている。

「皇統を守るために…女系…も あり得る」とのお立場だ。

偏狭かつ狂信的な男系「絶対」論とは区別すべき、冷静かつ理性的な男系「優先」論と言えよう。

八木氏はまた、
「女性皇族がご結婚後も『内親王』『女王』の尊称を保持できるようにし…品位を保っていただくための予算措置や役職の提供があってもよい」という。

これは、既に指摘しているように、
国民の中に新たに「身分」制度を設けることではないのか。

更に、「皇室典範は旧宮家の男系男子孫にも皇位継承資格があると解釈できる」ともいう。

だが、皇室典範は「皇位は…皇族に、これを伝える」(第2条)と明記する。

ならば、彼らは「皇族」なのか。

もちろん、そうではない。

彼らは皇族ではなく、紛れもなく国民だ。

現に皇統譜には載せられず、戸籍に登録されている。

実際、国民としての「権利と義務」の中で生活してきた。

彼らが国民だからこそ、「旧」宮家と八木氏も呼んでいるのではないか。

あるいは、「男系」論者がしきりに唱える旧宮家の「復活」とか皇籍への「復帰」というのも、皇族の身分を離れた国民であることを、前提とした表現だ。

どこをどうひっくり返せば、国民である「旧」宮家の男系男子孫にも、皇族だけに認められる皇位継承資格が認められるという
「解釈」が出てくるのか。

不思議だ。

しかもこれは、本人がどれだけ自覚しているか不明だが、国民にも皇位継承資格が認められるとの「革命」の論理に繋がる。

皇室という「聖域」でお生まれになり、天皇陛下の血をじかに継いでおられる内親王方を、「女性」だからとの理由だけで、
問答無用で民間に降らせようとし、一方、民間に生まれ、世俗で生きて来た旧宮家系男子孫は、「男性」だからとの理由だけで、
皇位継承の資格まで認めてしまうとは!

八木氏の意見は、普通の常識では「暴論」と呼ばれるべきものだろう。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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