ゴー宣DOJO

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切通理作
2011.4.25 02:40

東北の復興は、日本の復興

 第12回ゴー宣道場で、政治家秘書のGさんが「被災地の必須の課題」としてまず挙げたのは「感染症の対処」でしたが、復興への道筋として第一に挙げたのが「地元の経済」であり「東北の復興が今後の日本を左右する」ということでした。

 それは、被災地で取材を続けている友人の作家・泉美木蘭さんの報告からも如実に伺えます。


 東北で被災した若い人達で身体が健康で動ける人は、避難所を出ていまだ帰宅難民状態が続きながら、家族友人を亡くした悲愁感や生き残った罪責感に苛まれながらも、「働かねば」と前向きに決意しています。

 被災の翌日もう避難所から歩いて通勤している人も少なくありません。


 ところがそこに、日本全国の自粛ムードで東北に仕事が来ず、場合によっては勤めている会社すら倒産……という状況が追い打ちをかけているというのです。


 「会社のライフラインは復旧し通常どおり働ける。みんな仕事する気モリモリなのに、変な心配されて仕事がバラしになったりしています。『こんなときですから…』と善意で依頼を遠慮されてしまう同業がたくさんいます。仙台は元気です! 地元のためにも、一日もはやく経済活動に組み込まれて、以前のようにバリバリ仕事をしたい」

 これは、泉美木蘭さんが取材した仙台市内で広告代理店に勤めるアートディレクターの30代女性の声です。


 また福島市の
50代男性警備員からは「大津波ですべてを失い、避難所生活をしている被災者を思うとつらい。でも自分たちのように物質的な被害のなかった家庭や日雇い労働者も、震災後に仕事が激減し保障も手が回らず、苦しいです。このひと月で貯金を切り崩した。もっと働きたい、仕事がほしい」という証言がありました。

 
 「働く東北」に仕事を依頼するのは、ひとつの大きな経済支援になると、木蘭さんは人々の話を聞いて思ったそうです。

 
 気仙沼市の女性はこう言っていました。

「被災者は突然絶望感や罪悪感に苛まれる『ゆりもどし』を体験する。自分も気仙沼湾の火事で父のマグロ漁船は燃え、親戚7軒が家を流された。でも、暗い顔ではいられない。笑えるときは笑い、働けるなら働きたい。日本中『自粛』なんてやめて快活になってほしい」

 
 その女性は「自粛なんて意味ない」と繰り返し言っていたそうです。

「東京の人が『こんなときだからお花見は中止』と言っていたり、東北でも『お祭り中止』なんて話を聞くと『エーッ?』と思う。桜の時期はお花見で飲んで騒いで笑って、それで普通。お祭りは、人手不足なら中止もやむをえないけど、やれる地域は絶対やって活性化に一役買ってほしい」

 
 ここから伺えるのは、自粛は「ムード」だけの問題ではなく、働くということも「気力」だけの問題ではなく、経済活動に直に反映しているということです。経済活動がうまくいかなくなれば、仕事を失うことに即つながります。

 
 仙台市内通勤女性は「気力だけで乗り切れるわけじゃない。働ける人は働きたい。そのための『仕事』が必要。遠慮や自粛をせずに、東北に仕事を依頼する』という動きが全国区で起きてくれれば」と言っていたそうです。

「風評や自粛をばらまくより、『仕事の発注、東北へ! お取り寄せは、東北から!』って合言葉ばらまこうよ!」と木蘭さんは呼び掛けています。


 私事ですが、木蘭さんや田上くんが被災地に行っているのをよそに、私は先週末、たまたま用があって日帰りで伊豆高原に行きました。観光で人が集まる例年の桜祭りに今年は全然人が来ず、駅ターミナルも閑散としていて、一番大きな土産物の総合センターは昼間から休みになっていました。タクシーの運転手さんもハッキリ意気消沈していました。

 伊豆高原では3月11日もほとんど揺れを感じなかったといいますが、それにしてこの状況です。


 東北の人はいま、被災と、日本全国の活力を奪われた状況のアオリのサンドイッチになっている
のではと思いました。

 その中で懸命に「日常」を維持しようとしている人々の姿。それはいまの日本のメルクマールかもしれない、という思いを強くしました。

 

 「反原発デモのニュースや東電批判を見ても胸に響かない。批判より、救助復興につながる意識や行動が必要に思う」

 福島県伊達市の、現在カブが出荷停止になっている農家の30代女性は木蘭さんにそう言ったといいます。

 

 そして福島市の50代男性警備員はこう言ったそうです。「東電や行政に言いたいことは山ほどある。でもいまはまず、家族を養うために働かなければならない。しかし、震災で仕事が減った。以前派遣されていた地区は立入禁止。家も家族もあるが、仕事がなければ食えなくなる。こういうスポットの当たらない被災を知ってほしい」

 
 いまメディアは「放射能怖い」+東電スキャンダルに傾斜していて、ネットはにわか原発蘊蓄家による陰謀論の披露合戦になっています。


 しかし木蘭さんが現地で聞くのは「批判していればいずれ誰かがなんとかしてくれるというレベルの状態ではない」というご意見ばかりだそうです。

 木蘭さんはこうメッセージを届けてくれました。


元気な人は働こうとしている。

笑顔を絶やさず、楽しみを見つけたら遠慮なく楽しみ、

そして、目に見えない不安と、「どうしても派手な被災地にばかりスポットが当てられること」への不満と戦いながら、一年後どう生きていくかを現実的に考えている。

 みんな一様のことを言ってる。

「自粛はいらない。日本中が東北に遠慮なく活気づいて経済がまわることが、復興のいしづえなんだから」

 「がんばろう東北」ではなくて

「がんばろうニッポン」だなって、思う。


 喪失感に後ろ髪引かれながらも、歯を食いしばって立とうとしている人々の行く末には、東北のみならず、否被災地のみならず、日本がどう復興していくかの問題が集約されていると思います。

  
※以上の記述は、泉美木蘭さんから頂いた電話やメール、ツイートから、私の責任で再構成したものです。

 泉美木蘭さんご本人は、以下のブログで適宜ご自分の文章をまとめています。

 
http://mokurenizumi.seesaa.net/archives/20110423-1.html
泉美木蘭 Mokuren Izumi 「被災地から」

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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