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高森明勅
2010.8.30 13:42

「あさなぎ」への誤解(続々)

私が先に(続)で事実誤認を指摘した件につき、早速、小林さんにお認め頂いた。

共に公論形成に参画する者として、その率直かつ潔い態度に心より敬意を表したい。

なお予めお断りしておくと、運動だから良いとか悪いとか、そんな決めつけには、私はあまり関心がない。

現にこれまで、自分で必要かつ有益で、しかも自ら参加が可能だと判断した運動には、微力ながら加わって来たし、ささやかながら率先して運動を提起したこともある。

だから当然、今も端っこに加わっている「新しい歴史教科書をつくる会」が運動体であることを認めるのに、何の躊躇もない。

「あさなぎ」が運動体であるかどうかは、そうした一般論とは切り離して、その実情、実態に即して判断する必要がある。

小林さんが触れておられる「ひめゆり記念館」関連の若者たちの動きについては、残念ながら私はその実情、実態を何も知らない。

従って、それが「運動」かどうかを判定する資格はなく、申し訳ないが、この点へのコメントは差し控えさせて頂きたい。

一方、靖国神社崇敬奉賛会の青年部(愛称あさなぎ)については、一般の方々よりは、多少その実情、実態を知りうる立場にある。

では、「あさなぎ」は運動体なのかどうか?

ーーまず前提として確認しておきたいのは、この会が若者たちの自発性によって発足した際、あくまで崇敬奉賛会の一セクションである青年部と位置付けられた事実。

「あさなぎ」という愛称を持っていても、別に単独、独立の組織ではない。

従って、崇敬奉賛会と全く異なる性格を持つ団体ではあり得ない(というより同一の団体)、という点は承知しておくべきだ。

ならば、崇敬奉賛会そのものを運動体と見るかどうか、という話になる。

かつて反靖国団体が、日本遺族会が戦没者の慰霊祭を行っているので、宗教団体だと主張して顰蹙をかったことがある。

同様に、崇敬奉賛会そのものを運動体と見るのは無理があろう。

更に、「あさなぎ」の主な活動内容は「部員相互の研鑽及び親睦」と「靖国神社への奉仕活動」に尽きる。

対外的に行動したり、偉そうなことを言うより、まず自分たちの未熟さを自覚し、研鑽に努めようーーということ。

そこから先、実際に何か社会的な行動を起こしたくなったら、各自の責任で、「あさなぎ」の外で自由にやればいい。そういう組織だ。

だから、神社の崇敬会などで、このような形の青年部を既に持っているところがあるかも知れない。

と言うより、明治神宮の崇敬会関係では既に「響(ひびき)」という若者を中心とした組織があって、「あさなぎ」を発足させる際、受け皿となる靖国神社崇敬奉賛会の事務局は、これを先行例として、一つの参考にしたようだ。

あるいは今後も、若者たちの自発性によって、新しく発足するところが出て来るかも。

それらも全て運動体と見るのだろうか。

「運動」は普通、社会的な目的を達成するために人々に働きかける事と理解されている。

「あさなぎ」は、そうした「運動」についての通常の理解に照らして、とても運動体とは規定出来ないだろう。

なお、小林さんは「あさなぎ」の若者に左翼はいないでしょう?と書いておられた。

まぁ、そう考えるのが当然。でも意外といるかも。

というのは、確かまだ「あさなぎ」が発足する前だったはずだが、崇敬奉賛会主催のシンポジウムが九段会館で開かれて、横田ご夫妻と崇敬奉賛会の若者が話し合うコーナーがあった。

その時、ステージにあがった若者の1人が懇親会の席上、自分は共産党員で、個人的にはレーニン主義者、と自己紹介していた。

当時は自民党政権時代だったので「自民党政権は断固打倒すべきだが、その事と戦没者

に感謝する事は別」などと喋っていた。

こんな若者が会員にいるのも面白いが、主催者もよく壇上にあげたなと呆れながら、その懐の深さに半分感心した覚えがある(ただ単に彼の思想を知らなかっただけかも知れないが、予め窮屈な身上調査などしなかった証拠)。

名前を覚えてないので名簿で確認出来ないが、彼がそのまま「あさなぎ」に入っていても可笑しくない。

更に彼のような会員が、他にもいる可能性もある。

その種の思想チェックなど、一切していない。

清掃奉仕や勉強会に、参加したい者が参加すればいい。

もちろん、強制などあり得ない。

但し、年齢が40歳になったら青年部から離れなければならない(今のところオジサン・オバサン部はない)。

それが等身大の「あさなぎ」だ。

それでもやっぱり「運動体」と考えたい人がいたら、これはもう主観の違いなので、私としてはこれ以上、何も言うことはない。

今はただ、思わぬ形で、私がいささか関わっている「あさなぎ」について、詳しく説明する機会を与えられた事を、小林さんに感謝するのみ。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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