これまで、最新のアカデミックな神道史書である『日本神道史』に示された岡田荘司氏の神道「成立」論をめぐり、2回ほど私なりの感想を述べた。
私にとっては大切なテーマなので、もう一度だけ触れておきたい。
同書の中で岡田氏は「神道の信仰体系は、古代以来の神社と祭祀とに備わって」いると仰っている。
まことにに妥当な指摘だ。
ではその神社の中で最も尊いのは?言うまでもなく、伊勢の神宮に他ならない。
では伊勢神宮の起源はいつか?岡田氏は『日本書紀』などの古伝を尊重し、さらに考古学上の成果も活用して、垂仁天皇の時代だった可能性を強く示唆されている(『歴史読本』平成2年4月号)。
古墳時代前期(3世紀後半~4世紀前半)にあたる。
また神道の祭祀で最も重要なのは?もちろん新嘗祭(にいなめさい)であることに、専門家は誰しも異論を挟まないはずだ。
ではその起源は?岡田氏の意見は次の通り。
「共同体における新嘗の淵源は弥生時代まで遡ると思われるが、体系的な新嘗は、纏向(まきむく)に開花したとみられる」(『大嘗の祭り』)
ここにある纏向とは、奈良県にある古墳時代前期の纏向遺跡のこと。
つまり「体系的な新嘗」の起こりを古墳時代前期と見ておられるのだ。
ということは、岡田氏の見解では、神道の信仰体系を構成する主な要素は神社と祭祀で、その神社で最も尊い伊勢神宮も、祭祀で最も重要な新嘗の神事も、ともに古墳時代前期に起源を求めることが出来ることになる。
私もその考えにほぼ賛成だ。
であれば、普通に考えると、古墳時代前期には神道もすでに「成立」していたという結論になるのではあるまいか。
ところが岡田氏は、数百年後の7世紀後半・8世紀に神道が「成立」したとされる。
一般には、なかなか素直に受け入れにくい見方のように思われるが、どうだろうか。