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2025.1.17 07:00ゴー宣道場

徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方 1.「人権は爆弾」と言ってるところ

 

徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方 byケロ坊

「保守って何だろ」と気になり、以前に「皇位継承の危機から見た『フランス革命の省察』~男系派が全然保守ではない23の理由」を書きました。しかし・・・

なにぶん参考にしたPHP研究所の本の佐藤健志氏の訳は意訳が過ぎるように感じられた上に、一番イタイのが、文庫版で「日本政府のコロナ対策はオリンピックをやろうとしたりしてけしからん!」「観念論の暴走はダメだとバークも言ってるぞ!」と書いていて、いや“コロナは恐ろしい”の観念に囚われたのはアナタですよね?とツッコミたくなるような信頼に関わることをやっていたのと、単純に訳文が英語の翻訳っぽくないので、著者のエドマンド・バークは本当にこんなことを書いてたのか?という疑念が拭えなくなりました。

保守とは何かを考えているのに、元にしている文章の正確性が疑わしいとなると、すべてが崩壊してしまいます。
そこで他の翻訳本と比較してみることにしました。
(ちなみに、「省察」は、僕はずっと「しょうさつ」と読んでましたが、正しくは「せいさつ」だそうです。ただし「しょうさつ」と読んでも間違いではないようです。)

以下の本を選びました。

一つ目が、2020年刊行の光文社文庫、二木麻里(ふたきまり)訳の『フランス革命についての省察』です。


二木氏はフランスの名作『夜間飛行』を訳していたり、固い学術書などを扱うみすず書房からも翻訳本を出していたりするので、かなり信頼度は高いです。

二つ目が、2000年刊行の中野好之(なかのよしゆき)訳の『フランス革命についての省察』上下巻です。
言わずもがなの安定の岩波文庫です。


定価は各600円で、今からすると安く見えますが、絶版だったので古本を約2倍の値段で買いました。

余談ですが、本屋で岩波文庫の背表紙を眺めるととても固い感じがします。光文社文庫も格調があります。けどPHP文庫は明らかにカルいんですよね。これは偏見ですが、偏見は大事です。

さらにもう一つ、2002年刊行の中公クラシックスの水田洋・水田珠枝訳の『フランス革命についての省察Ⅰ・Ⅱ』も入手しました。


こちらは岩波文庫の中野版に近いので、特に気になった項目で参考にさせていただきました。

 

1.「人権は爆弾」と言ってるところ

まずは一番気になる「人権」の記述について。ここをどう書いているのか、それぞれ引用します。

佐藤健志版(PHP研究所)
「連中の手にかかると、経験に頼るのは学がない証拠になってしまう。しかも彼らは、古来の伝統や、過去の議会による決議、憲章、法律のことごとくを、一気に吹き飛ばす爆弾まで持っている。
この爆弾は「人権」と呼ばれる。長年の慣習に基づく権利や取り決めなど、人権の前にはすべて無効となる。人権は加減を知らず、妥協を受けつけない。人権の名のもとになされる要求を少しでも拒んだら、インチキで不正だということにされてしまうのだ。」

二木麻里版(光文社文庫)
「かれらは経験というものを無学者の叡智として軽蔑しています。経験なしでどうするかというと、いわば地中に爆弾を埋めて、一発の大爆発ですべてを吹き飛ばそうというのです。古くからの実例も、議会の先例も、国の憲章も法令も、すべてをです。
かれらの手には「人間の権利」というものがあります。この権利にはどんな時効もききませんし、どんな論拠も拘束力がなく、どんな修正も妥協もみとめられません。その全面的な要求に応じられないものは、なんであれ欺瞞であり不正なのです。」

中野好之版(岩波文庫)
「彼らは、経験を無学な徒の知恵と軽蔑しているし、それ以外にも、古来の各種の範例、あらゆる先例、憲章、議会法を、一撃で粉砕しうる地雷を地下に埋め込んでいる。
彼らの手中には「人間の権利」がある。この錦の御旗の前には、どんな時効、どんな協約も効力がない。この権利は、如何なる妥協、如何なる調停も認めない。この全能な権限の前に留保されるものは、一切が詐欺であり、不正である。」

水田洋・水田珠枝版(中公クラシックス)
「かれらは、経験を、無学者の知恵だとして軽蔑しているのだ。そして、そのほかのことについては、かれらは地下に地雷をしかけたのであって、それは一大爆発によって、あらゆる昔の実例、議会のあらゆる先例と特許状と法律をふきとばしてしまうだろう。
かれらは、「人間の諸権利」をもっている。それらの権利にたいしては、いかなる時効も対抗できず、いかなる協定も拘束力をもたず、それらは、いかなる緩和もゆるさない。それらの完全な要求をはばむのは、すべて詐欺か不正にひとしい。」

こうして並べると、どう訳したのかというのがよくわかります。
「人権」でなく「人間の権利」と書かれると、今の人権が暴走して、ジャニー喜多川や松本人志や園子温や中居正広が社会から排除されるまで叩かれ続けるというポリコレ・DEIによるキャンセルカルチャーが猛威を振るってる現状のこととは直結しにくいかもしれません(DEIとは、Diversity(多様性)、Equity(公正性)、Inclusion(包括性)の頭文字で、ひらたく言うと企業周りでのポリコレのことです)。
とはいえ、二木版でも水田版でも他の箇所で「人権」の言葉は使っているので、単語がどうこうより、「人が生まれながらにして持っている権利」という考え方がおかしいと押さえておくのが肝要かと思いました。

ちなみに、「人権」を否定すると、「じゃあ人権がなくてもいいのか?」と返してくる人もいるのですが、その疑問についてもエドマンド・バークは回答を書いています。
何らかの権利を主張するにしても、抽象的でフヘン的な原理にもとづく、国も歴史も関係ない「人権(人間の権利)」ではなく、祖先から受けつがれてきた歴史の連続性、世襲の財産としてのイングランド人の権利としてであるべき、としています(二木版がわかりやすかったです)。
それは歴史が長く、皇室を戴いている日本人にも当てはまり、福澤諭吉の「権理・権理通義」を連想しやすい考え方です。
垣根を取り払うグローバルでなく、個々の存在を認めるインターナショナルでもあります。しかし排外的なわけでもありません。

人権を言うなら権理通義でなければいけないのに、フランス革命流の国家無視のグローバルな「人権」を受け入れてしまうからこそ、週刊誌に書かれた人が日本の歴史も文化も司法も無視して突然キャンセルされたり、あるいは死刑廃止とか天皇制廃止とかの話になり、日本人の常識とぶつかるようになるのだろうと思います。
今後は、自分も人権を考えるときは「日本人の権利(権理通義)」として捉えるようにして、グローバルな「人権」はもともと政府を転覆させるため、そして王を殺すための理屈として始まっていることは踏まえておきたいと思います。

さらには「皇室は人権の飛び地だ」という、主にロボット天皇論の左翼と、政略結婚を狙う男系派から出てくる屁理屈も、一見グローバルな「人権」を拒否してるかのように見えますが、そこには「日本人としての権理通義」もないので、ただ皇室の方々に一切の権利を認めず、すなわち差別して生け贄にしてるだけ、ということになります。
そういう面では、やはり左翼と自称保守はフランス革命の狂気と通底してると言えるでしょう。

 

「皇位継承の危機から見た『フランス革命の省察』
~男系派が全然保守ではない23の理由」

第1回
プロローグ
1.保守は逆張りではない
2.言葉の中身、論理の有無

第2回
3.設計図の欠陥を指摘すること
4. 「人権はヤバイ」と230年前から言われていた
5.「国をどう動かしていくか」という国家観
6.王と伝統との関係

第3回
7.   王室や伝統だけでなく、キリスト教も弾圧して貶めたフランス革命
8. 「Revolution」は全然カッコいいものじゃなかった
9. 「理性主義」の危険さ
10. 福澤諭吉との共通点(保守としての生き方)
11. 革命派の女性差別に怒る保守主義の父

第4回
12.「オレ様が啓蒙してやる」という態度は非常識なもの
13.固執と改善の話
14.『コロナ論』との共通点
15.愛郷心の大事さ
16.「自由」の意味
17.固執は無能の証

第5回
18.思いっきりリベラルなことも言ってた保守主義の父
19.革命派をカルトに例えるバーク
20.男系闇堕ちした石破と、妥協が技らしい野田のことも言われてる
21.国体を保守すること
22.歴史を省みない“うぬぼれ”
23.頭山満との共通点

 


ケロ坊さんによる、大変な労作論稿の登場です!
4種類もの訳書を読み比べてみるという挑戦をすること自体が凄い。
慣れないと、ここに引用されている分量だけでも読むにはハードルが高く感じるかもしれませんが、まずは流し読みでもいいから読んでみましょう。それだけでも訳者によってずいぶん違ってくるものだということが見えてきて、興味が湧いてきます。

特に佐藤健志版は…確かに内容的には他のものと違うことを書いてるわけじゃないけれど…でも、なんか違う!

さらに、読み比べたからこそ見えてきたバークの思想など、全18項目にわたってケロ坊さんが解説していきますので、どうぞお楽しみに!

 

 

 

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