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高森明勅
2024.3.21 07:08皇統問題

皇位継承問題を巡る自民党懇談会、産経新聞「誤報」の謎

産経新聞が不思議な記事を載せた。
3月16日付の「皇位継承の議論 動く」という記事だ。

そこでは、3月18日に開催される自民党の皇位継承問題を
巡る懇談会で話し合われる内容を、予想していた。

「自民は男系男子の復帰(正しくは皇籍取得ー引用者)案を
より重視しており、旧皇族に連なる人々が女性皇族と結婚したり、
養子として旧秩父宮家や旧高松宮家、旧桂宮家を継いだり
した場合の課題などを検討するとみられる」と。

ここで、旧宮家系男性子孫について「旧皇族“に連なる”人々」
と書いているのは興味深い。
何故なら、男系限定論者の用語法ではしばしば、かつて皇籍に
あられた元皇族=旧皇族と、生まれた時から国民だった
その子孫を“敢えて”混同して「旧皇族」と呼称して、
平然としているからだ。

産経新聞もこれまでは、メディアとしては考えられない偏向ぶりながら、
そのような(印象操作を狙った)間違った用語法を、
そのまま無批判に受け入れていたはずだ。
それを反省して訂正したのだろうか。

しかし、かつて一度も皇籍になかった事実を直視するならば、
「復帰」という用語も一緒に訂正しないとツジツマが合わなくなる。
だが、そこには注意が行き届いていないようだ。

それはともかく、この記事を読んだ人達は驚いたのではないか。
何しろ、女性皇族(内親王·女王)のご結婚相手を政治家が
指図(!)するかのような構図を浮かび上がらせる、
非礼·不敬な記事になっているからだ。
自民党の懇談会では、露骨な政略結婚の強制可能性すら
自明視したプランが公然と「検討」されるのか、と。

更に、既に廃絶して久しい旧秩父宮家などは、
当然ながら養子を迎える「養親」が不在。
なのに、本気で養子縁組が可能だと考えているのか。
そもそも“養子縁組”という制度を理解できているのか。

有識者会議報告書には「皇族が養子を迎えることを可能とし…」(11ページ)
と書いてある。
この「皇族」は当たり前だが“ご存命の方”を前提としている。
自民党の知的レベルに恐怖心すら抱かせる記事だった。

ところが、18日の懇談会の内容を伝える同じ産経新聞3月19日付の
「『女性宮家』文言用いず」という記事を見ると、
上記のような非常識極まるプランが検討されたことへの言及は、
全くない。

「政府の有識者会議が令和3年に取りまとめた報告書のうち、
内親王·女王が婚姻後も皇族の身分を保持できる案について議論した」

「出席者から有識者会議の報告書を高く評価する声が相次いだ」

とすると、先の記事は誤報だったのか。
そもそも旧宮家関係のプランはこの日のテーマにすらなっていなかった。
しかし男系派の中には、先のような常軌を逸したプランを抱く
政治家も、実際にいるのだろう。
その事実を暴露してくれた産経新聞の功績は認めたい。

19日付の記事にも呆れた一文があった。

「婚姻後の女性皇族が皇籍と戸籍両方を持つ案もあるが、
いずれも法制面など課題は少なくない」と。
先ず、この記事では皇位継承問題のキーワードである「皇籍」
の意味が理解できていない。
「皇籍」とは皇族としての“身分”を意味する。
だからその対語は、帝国憲法·旧皇室典範のもとでは「臣籍」。
現在はそれに該当する語はないが(国籍を意味する「民籍」という
語は少しズレる)、「国民としての身分」という概念が対応する。

一方、「戸籍」は国民の氏名·生年月日などを記し、
出生から死亡までの親族関係を登録·公証する“公文書”だ。
これに対応するのは、「皇統譜」。
皇籍と戸籍は、「籍」という漢字がたまたま共通していても、
全く別の範疇の言葉だ。
こんな説明をした自民党の政治家又は関係者も、
それを鵜呑みにして記事にした記者も、無知の程度がヒド過ぎる。

しかも、記事の中身に踏み込むと、皇室と国民の
“厳格な区別”という自覚が皆無なのに驚く。
婚姻後の内親王·女王が皇族の身分と国民の身分の両方を兼ね備え、
皇統譜と戸籍の両方に登録されるというプラン「もある」
というのは、果たして正気の話なのか。
その方には憲法の適用はどうなるか。

皇室の方々には第1章が“優先”的に適用される一方、
国民には第3章が“全面”的に適用される。
これは二者択一しかあり得ない。
その方の場合はどのようになるのか。
恐らく全く考えていないだろう。

「法制面など課題は少なくない」という以前の、
荒唐無稽な論外のプランと言う他ない。
それを真面目にメモして、そのまま記事にまでする記者が
いるかと思うと、メディアの底なしの劣化が悲しくなる。

先の記事と合わせて、産経新聞の取材源になっている
政治家又は関係者は、かなり怪しげだ。
どちらの記事にも署名が見える内藤慎二記者も以前、
ある調査でヒットした名前だったのを思い出す。

男系派国会議員の無知さについては先日、ある議員の集まりで、
さも皇室への敬愛の念を抱いているのかのようなそ振りを
見せながら、悠仁「内親王」とか悠仁「陛下」とか
連発していたのを目の前に見て、愕然とした。

追記
①「女性自身」(3月19日発売❲4月2日号❳)にコメントが掲載された。
②今月のプレジデントオンライン「高森明勅の皇室ウォッチ」は
3月22日に公開予定。

▶「女性自身」記事
https://jisin.jp/koushitsu/2305024/?rf=2

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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