目の前の皇室の危機を打開する政治の動きが
見えない状態が続いている。これに対して、「皇室会議」に事態打開の突破口を
見出そうとする意見が現れた(金子宗徳氏『国体文化』9月号)。「三権の長が対等に、それも天皇陛下の御稜威
(みいつ=社会的影響力)を仰いで集ふ場、
すなはち皇室会議において解決するしかない」と。膠着状態が続く現状への焦燥感は共感できるし、
これまでのワンパターン化した議論の枠組みに対して、
思考停止することなく新しい道を切り開こうとする
意欲も評価したい。
しかし具体的な提案内容については、いささか首をかしげる。
先ず、皇室典範に以下の条文がある(第37条)。「皇室会議は、この法律及び他の法律に基づく権限のみを行う」
もし皇室典範改正の在り方を皇室会議で審議したいのであれば、
現行法にはその「権限」について規定がないので、
それを根拠付ける法整備が必要になる。
皇室典範そのものを改正するか、新たに単独の法律を作るか。
いずれにしても、頑固な男系固執勢力の抵抗によって、
“先延ばし”され続けて来た皇位継承問題を「解決する」
権限(?)を、新たに皇室会議に与える法整備を図る場合、
残念ながらそれが国会においてスムーズに運ぶとは考えにくい。
むしろ、“より手前”で足踏みすることにもなりかねない。しかも、どのような法整備を試みても、
皇位継承問題を最終的に「解決する」為には、皇室典範の改正が
不可欠で、それは勿論、(皇室会議ではなく!)国会の議決
による(憲法第2条)。又、皇室会議を「天皇陛下の御稜威を仰いで集ふ場」
と言えるのか、どうか。
およそ実態から掛け離れた見方だろう。
その点、明治典範での「皇族会議」とは全く異なる。皇室会議のメンバーのうち、皇族はお2方だけ。
しかもそのお2方の選出は成年皇族の互選による。
その選出に天皇は関与されない(典範第28条第3項)。そもそも、皇族でない天皇·上皇が皇室会議に
関わられる仕組みが、全くない。
それどころか、先頃の皇族議員の選出に際して、
上皇后陛下が予備議員に選ばれられたものの、
「皇室会議に出席した場合、上皇さまの意思を
反映しているとの誤解を避けるため」に、
異例ながら辞退されている(共同通信9月7日、17時15分配信)。議長は首相(典範第29条)だから必ずしも
「三権の長が対等」という位置付けでもない。10人の議員のうち、国会からは衆参両院の正副議長が
メンバーに加わる。
なので、半数近くの4人を占める(皇族の2倍!)。
どこから見ても「天皇陛下の御稜威を仰いで…」
という組み立てになっていない。その上、戦後、皇室が国法上、自律的な地位を失われた
事実を踏まえ(勿論、私自身はそれを手放しで支持する
ものではないが)、皇位の安定継承という課題は、
残念ながら既に政治的なテーマになって久しい。それへの判断を皇族も加わっておられる
(しかもその主導性が保障されない)
皇室会議に求めようとすることは、皇室自体を
政治対立に巻き込む虞れがある。もとより皇位継承問題の解決に当たっては、
天皇陛下のご真意を謙虚に拝し、
それを最も尊重すべきことは言うまでもない。
だが、問題解決のプロセスに皇室会議という
(必ずしも皇室のご意思が貫徹され得ないのに、
責任だけは負わされかねない)機関を介在させる
ことの是非は、それと区別して考える必要がある。そもそも、皇位継承問題の“現在地”を見誤ってはならない。
直接には、上皇陛下のビデオメッセージによるお呼び掛けから
スタートした動きは、→特例法成立時の皇位の安定継承への検討を
政府に求める附帯決議に結び付き、
→政府は附帯決議の要請に応えて遅ればせながら
有識者会議を立ち上げ、→その有識者会議は事実上の
「白紙回答」であり、欠陥だらけのプランを並べた
報告書を提出、→それを政府はそのまま国会の検討に委ね、
→国会は“ボール”を受け取ったまま、これまで1年半以上、
“店晒し”にしているのが現状だ。そのボールを国会から取り上げて、手間暇かけて
今から新たな法整備を行い、従前、難題解決に道筋を
付けた実績もノウハウの蓄積もない皇室会議に
丸投げしても、率直に言って混乱を拡大し、
紛糾を深めるだけだろう。危機打開の為には、現にボールが“回って来ている”国会、
具体的には政党·政治家に働きかけるしかない。
従って、国会の“当事者としての責任”を曖昧にするような
提案は感心しない。【高森明勅公式サイト】
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