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泉美木蘭
2023.7.20 07:29

芸能界は別世界

子どもの頃、はじめて買ったレコードは、
光GENJIのデビュー曲「スターライト」で、あっくんのファンだった。
猛烈にキャーキャー言っていて、ポスターや「明星」の切り抜き、
カレンダーの過ぎ去った月まで、壁やら天井やらに貼りまくり、
物差しや木のゴミ箱やカセットテープのケースなどに、
コンパスの針で「光GENJI」のロゴを手彫りして、
ゴムバンドで足の裏にそろばんを固定し、部屋の中を滑っていた。

・・・と思ったら、元フォーリブスの北公次が、
ジャニーズ内部の暴露本を出版し、それがすごく売れていたらしく、
巷の話題になった。
最近の話とほとんど同じ内容だったと思う。
最初はビビったけれど、ママ友たちの談笑の脇で、
「やっぱり芸能界でスターになって稼ぐには、血反吐も吐く思いで
やってかなあかんのやねえ」
なんて興味津々で話しているのを聞いていた。

自分たちの暮らしている一般人の社会とは、まったくの別世界が
芸能界というところで、
「うわあ、やっぱり違う世界なんやなあ」
と感じるだけで、いちいちそれを「許す」「許さない」「怒り」
という感覚で、自分に引き付けてまで見ていなかったと思う。
それどころか、ファンとしてもっと熱狂的に応援するようになり、
ますます「光GENJI」ロゴをそこらじゅうに彫刻しまくって、
親に呆れられていた。

それは、その後テレビでよく見るようになった新宿歌舞伎町の
ナンバー1ホステス、ホストたちの密着番組を見て、

「うわー、あんなにがばがば酒をかっくらっているのかー。

肝臓壊すまで体を痛めて、どんちゃん騒ぎの接待の限りを
尽くしまくる日々を毎日送って、やっとつかみ取るのが
ナンバーワンの椅子なんだなあ。
欲望と弱肉強食を地でゆく世界、恐るべし……」

などと思い、でもそれは、あくまでも自分とはまったく別の、
非日常の世界を演じる人々の話であって、それを見て
「こんな働き方は人権侵害じゃないか!?」
と怒ったりはしない感覚と似ているように思う。

ジャニーズの内部話は、むかしから知られていることだし、
歌番組でジャニーズとバーニングが熾烈に争っていて、
「ほとんどマフィアみたいな抗争の世界らしい」
みたいなウワサもよく聞いた。
アイドルや歌謡曲の世界だけでなく、ほかのジャンルでも、
「ひえー、芸能界ってやっぱそういう所なんだ!」
と思うような話を大人になってからも聞いている。

だから、ジャニー喜多川の死後、たちまちこんな紛糾状態に
なるのを見て、1つの帝国の終焉を眺めるような気持ちには
なっているものの、ジャニーズそのものを糾弾しようとは思わない。
「子どもだったんだぞ」と言われても、じゃあ子どもを働かせるな、
ということにはならないの? 芸能界は別なんでしょと思ってしまう。

もちろん、「ジャニー喜多川亡きいま、パワーバランスが崩れて
テレビが取り扱うように
なったので過熱する」という面もあるとは思うが、
そもそも「芸能界は、自分とはまったくの別世界」という、
垣根の感覚が、融けてなくなっているのではないかとも思う。

Youtubeやtwitterをはじめ、自分の応援が直接届いて、
ともすると本人から返信が来るかもしれず、
出世物語に参加して、自分が育ててあげているような気分を
味わえる状態がある。
さらに、ネットで個人がなんでも好き勝手に発信できて、
本来ならボツになるような支離滅裂な発言でも、ある程度の
賛同が得られる。

自分のいる一般的な生活とはまったく基準も常識も違っていて、
別世界で起きている話のはずが、その垣根が見えなくなり、
まるで「自分ゴト」のように受け取ってしまい、いちいち怒る、
正義厨が加速しやすい時代なのかもしれない。

 

 

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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