皇族の身分とご結婚との関係について、
前近代と近代以降で大きく異なる。前近代の場合は、女性皇族が皇族以外の男性と結婚された場合も、皇族の身分をそのまま保持された。逆に、皇族以外の女性が男性皇族と結婚しても、皇族の身分は取得できなかった。つまり結婚による身分の変更はなかった。これに対して近代(明治の皇室典範)以降は、女性皇族が皇族以外の男性と結婚されると皇族の身分を離れ、皇族以外の女性が男性皇族と婚姻すると皇族の身分を取得されることになった。こちらでは結婚によって、相手の男性の身分と同一化する(相手が男性“皇族”なら国民女性も皇族に、相手が“国民”男性なら女性皇族も国民に、それぞれ身分の変更があった)。ところが、政府が国会に検討を委ねた皇族数の確保策を巡る有識者会議報告書には以下のような記述がある。「(明治の皇室典範以来の)制度を改めて、内親王・女王は婚姻後も皇族の身分は保持することとし、婚姻後も皇族として様々な活動を行っていただく」(10ページ)「これは、明治時代に旧皇室典範が定められるまでは、女性皇族は皇族でない者と婚姻しても身分は皇族のままであったという皇室の歴史とも整合的なものと考えます」(同)身分と婚姻を巡って、前述のように「皇室の歴史」そのものが、前近代と近代以降で“大きく転換”している。それを知らないのか、それともわざと混同しているのか。いずれにしても驚くべき時代錯誤と言わざるを得ない。前近代の結婚による身分の“変更がない”在り方をそのまま肯定するならば、ご結婚によって皇族の身分を取得され、皇后や親王妃などになられている方々のお立場との整合性を、一体どう説明するつもりだろうか(報告書のロジックを押し通せば、必然的に「皇室の歴史」と「整合的」でない〔!〕という判定になる)。そもそも、親王・王がご結婚後も皇族のままである一方、内親王・女王が皇族以外の男性と結婚されたら皇族の身分から離れる-という“非対称的な”制度設計の基底にある根拠・理由は何か。それは親王・王(及びそのお子様)には皇位継承資格が認められる一方、内親王・女王(及び皇族以外の男性との間に生まれられたお子様)にはそれが認められて“いない”、ということだ。よって内親王・女王に皇位継承資格がないままであれば、皇族以外の男性とのご結婚後も皇族の身分にとどまる合理的な根拠・理由を説明しがたい。内親王・女王がご結婚後も皇族の身分をそのまま保持する制度にするのであれば、それらの方々に皇位継承資格を認める必要がある。もし皇位継承資格を認めないなら、ご結婚と共に皇族の身分を離れられるルールをことさら変更するのは筋が通らないから、これまで通りという結論になる。政府は前近代との混同を(無知か?故意か?)持ち込んで、その点を誤魔化そうとしているように見える。しかし、上記の二者択一しかない。【高森明勅公式サイト】