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高森明勅
2022.10.13 11:04皇統問題

特例法「傍系の皇嗣=皇太子の例による」という規定への誤解

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」
第5条に以下の規定がある。

「第2条の規定による皇位の継承に伴い
皇嗣となった皇族に関しては、皇室典範に定める
事項については、皇太子の例による」

「第2条の規定による皇位の継承」とは、
具体的には上皇陛下のご退位に伴う今上(きんじょう)陛下の
ご即位を指す。
だから当然、「(それに)伴い皇嗣となった皇族」とは
秋篠宮殿下のことに他ならない。

それが「皇室典範に定める事項については、皇太子の例による」
ということは、“傍系の皇嗣”でいらっしゃる秋篠宮殿下も全て
「皇太子」と同じ位置付けになることを意味するのか。
この点について、誤解又は混乱が見られるようだ。
しかし勿論、“全く同じ位置付け”になる訳ではない。

そもそも、「皇室典範に定める事項」とは何か。
そこを明確化しないと、この規定の意味が理解できない。
皇室典範で皇太子・皇太孫(直系の皇嗣)と傍系の皇嗣が
同じように扱われている部分は勿論、問題にならない。
その両者の間に差別を設けている「事項」にこそ、
目を向ける必要がある。

それは何か。

具体的には次の規定だ。
皇室典範第11条第2項。

「親王(皇太子及び皇太孫を除く。)内親王、王及び女王は、
前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、
皇室会議の議により、皇族の身分を離れる」

これは、直系の皇嗣(皇太子・皇太孫)だけを除き、
親王・内親王・王・女王に対して(と言うことは“傍系の皇嗣”も
対象から除外されない)、「やむを得ない特別の事由があるときは」
ご本人の意思に関わりなく皇室会議の議決だけで「皇族の身分を離れる」
という措置を執り得る-というルールを定めたものだ。

ちなみに「やむを得ない特別の事由」とは、
「懲戒に値する行為があつた場合その他皇族として
その地位を保持することを不適当とする事情」および
「皇族数を調整する必要を生じた場合」
(法制局「皇室典範案に関する想定問答」)とされている。

それはともかく皇室典範の規定では、傍系の皇嗣も
ご本人の意思と無関係に、皇室会議の議決で一方的に
皇籍離脱を余儀なくされ得るルールになっている。

秋篠宮殿下は傍系の皇嗣でいらっしゃるので、
さすがにこの点への手当てが欠かせないと判断されて、
特例法に上記の条文が入ることになったのだろう
(この他に、第17条第1項にも直系と傍系の皇嗣の扱いに
名目的な差別を設けているが、特に手当ては必要としない)。

つまり、傍系の皇嗣でいらっしゃる秋篠宮殿下も
「皇室典範に定める事項については、皇太子の例による」
というのは、皇室典範第11条第2項の適用について、
「皇太子」と同様に“例外”とすることを意味するにとどまる。

たまたまその時の巡り合わせで皇位継承順位が
第1位とされているに過ぎない、という“非確定的”な
お立場であること(それが傍系の皇嗣の本質)が
この規定によって変わることはない。

今の皇室典範のまま一字一句変更がなくても、
理論的な想定として天皇・皇后両陛下に今後もし男子が
お生まれになったら、その瞬間に継承順位は変更されるし、
更に国会が皇室典範の改正を行って第1条の「男子」の語が
削除されたら、同じく直ちに変更となる。

そのような変更は、次の天皇であることが確定している
お立場の「皇太子」であれば、理論的な仮定としても
あり得ないことだ(様々な皇室典範の改正を想定できる
としても、皇位継承の直系主義をねじ曲げる改正は
にわかに考えがたい)。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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