皇統問題においては、2つの有識者会議の報告書がある。 1つは、令和3年12月22日、 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」 に関する有識者会議 である(以下、令和3年報告書)。 もう1つは、平成17年11月24日、 皇室典範に関する有識者会議 報告書 だ(以下、平成17年報告書)。 決して読みにくい報告書ではないのだけど、 わざわざ調べる人も少ないかもしれない。 読み比べてみると、いろいろと違いが浮き彫りになるので、 何回かにわけて紹介していきたい。 ちなみに平成17年から令和3年の間に 大きな出来事があった。 天皇陛下(現上皇陛下)の“生前退位”で、 こちらは「天王の退位等に関する皇室典範特例法」 として定められた(平成29年)。 これには、「政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、 女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても 先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、 本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、 全体として整合性が取れるよう検討を行い、 その結果を、速やかに国会に報告すること」 などの附帯決議がなされた。 この附帯決議に基づく有識者会議が開かれたのが 令和3年3月だから、4年近くが経過している。 決して「本法施行後速やかに」ではなかったことを まず付け加えておきたい。 ■「はじめに」に現れるスタンスの違い さっそく内容に入りたいところなのだけど、 「はじめに」で、もう言いたいことが出てきてしまった。 こちらは、ニュアンスを正しく感じ取ってもらうために それぞれ全文掲載しよう。 (平成17年報告書「はじめに」) 「皇室典範に関する有識者会議」は、内閣総理大臣から、将来にわたり皇位 継承を安定的に維持するための皇位継承制度とこれに関連する制度の在り方に ついて検討を行うよう要請を受け、本年1月以来、17回の会合を開くととも に、随時、非公式会合を行い、議論を重ねた。 天皇の制度は、古代以来の長い歴史を有するものであり、その見方も個人の 歴史観や国家観により一様ではない。我々は、与えられた課題の重みを深く受 け止め、真摯に問題を分析し、様々な観点から論点を整理するとともに、それ らを国民の前に明らかにし、世論の動向を見ながら、慎重に検討を進めるよう 努めた。 具体的には、現行憲法を前提として検討することとし、まず、現行の皇位継 承に関する制度の趣旨やその背景となっている歴史上の事実について、十分に 認識を深めることに力を注いだ。 5月、6月には、その後の議論の参考とするために、皇室制度、憲法、宗教、 歴史など様々な分野の専門的な知識を有する8名の識者から意見を伺った。ま た、7月には、広く国民に理解と関心を深めていただくための一助となるよう、 検討の基本的な視点を明らかにしつつ「今後の検討に向けた論点の整理」を取 りまとめ、公表した。それ以降、これに沿って、中長期的視点に立ちつつ、現 在の我が国の社会において広く受け入れられる結論を探るべく、議論を深めて きた。 この報告書は、こうした経過を経て、この度得られた結論を示すものである。 (令和3年報告書「はじめに」) 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」(平成 29 年 6月1日衆議院議院運営委員会・同月7日参議院天皇の退位等に関する皇室 典範特例法案特別委員会。以下「附帯決議」といいます。)では、「安定的な 皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」について、政府は検 討を行い、その結果を国会に報告することとされています。 この会議(以下単に「会議」といいます。)は、菅義偉内閣において、「『天 皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議』に関する有識者会 議の開催について」(令和3年3月 16 日内閣総理大臣決裁)に基づき、上記 の課題について、様々な専門的知見を有する人々の意見を踏まえ議論し整理 することをその趣旨として設置されました。会議としては、この趣旨を踏ま えた上で、若い世代や女性を含め幅広い方々から御意見を伺い、議論を進め ました。 7月 26 日の第 10 回会議においては、それまでの議論を基に「今後の整理 の方向性について」を取りまとめ、また更なる議論のため、事務局に対し、 制度的事項や歴史的事項について調査・研究を依頼しました。岸田文雄内閣 において会議は再開され、調査・研究結果も踏まえながら 11 月以降議論を 行い、今般、附帯決議をめぐる議論について会議として結論を得ることがで きました。 天皇及び皇族に関する制度は、憲法に定められた国家の基本に関わる事柄 です。附帯決議で示された課題については、国民の中でも様々な考え方があ り、将来に向けた方策を見出していくには大変難しいものがありますが、今 のうちに検討しておく必要があります。 会議においては、3月以来 10 回を超える場を設け、慎重かつ真剣な議論 を行ってきました。ここに、この課題についての会議としての考え方をお示 ししたいと思います。 これ、違いがわかるだろうか。 すぐに気がつくのは、前者が「である」調で、 後者が「ですます」調であることだ。 報告書の類いは「である」調が一般的だと思うが、 「ですます」調でも決して間違いではない。 要するにどちらでもいい。 最も違うと私が思うのは、この会議に向けての意気込みや、 どのようなスタンスで望んだのか、ということだ。 平成17年報告書では、 「与えられた課題の重みを深く受け止め、真摯に問題を分析し、 様々な観点から論点を整理するとともに、 それらを国民の前に明らかにし、世論の動向を見ながら、 慎重に検討を進めるよう努めた」と記されている。 以下、具体的にどのような順番で何を議論したかが示されている。 ところが令和3年報告書には、それがない。 あるのは、「議論を進めた」ということだけ。 「若い世代や女性を含め幅広い方々から御意見を伺い、 議論を進めました」 「更なる議論のため、事務局に調査・研究を依頼」 「調査・研究結果も踏まえながら11月以降議論を行い」など。 与えられた課題がどのような重みや意義を持つのか、 そのために有識者会議としてどのような姿勢で臨んだのか、 これが全くないのである。 自明のこととしても、基本として押さえておくべきでは? 挙げ句に、 「附帯決議で示された課題については、国民の中でも様々な考え方があり、 将来に向けた方策を見出していくには大変難しいものがありますが、 今のうちに検討しておく必要があります」と述べている。 今のうちにって、非常に口語的な表現で、じつに曖昧。 仮にも「有識者」がこんな言葉をぼんやり使っていていいのか。 それに「難しいものがあるけど、今のうちに検討する必要がある」 という一文は、何だか突き放したような、この問題を他人事として 捉えているようなニュアンスさえ感じられる。 平成17年報告書はどうか。 本論の冒頭、「Ⅰ.問題の所在」において、こう記している。 象徴天皇の制度をとる我が国にとって、安定的な皇位の継承は、国家の基本 に関わる事項である。 現行の皇室典範を前提にすると、現在の皇室の構成では、早晩、皇位継承資 格者が不在となるおそれがあり、日本国憲法(以下「憲法」という。)が定める 象徴天皇制度の維持や長い歴史を持つ皇位の継承が不確実になりかねない状況 となっている。 したがって、将来にわたって安定的な皇位の継承を可能にするための制度を 早急に構築することは、現在の我が国にとって避けて通ることのできない重要 な課題である。 平成17年の時点において「早急に」制度構築しなければならないと している事柄を、16年後の令和3年では 「今のうちに」などと言っているわけだ。 附帯決議があるというのに。 ちなみに令和3年報告書には「問題の所在」という 項目はない。 作文能力の違いといえばそれまでかもしれないが、 この課題への理解や危機感の有無が 透けて見えるように感じるのは私だけか?? なお、平成17年の有識者会議座長は 吉川弘之(元東京大学総長、独立行政法人産業技術総合研究所理事長)。 令和3年の有識者会議の座長は 清家 篤(日本私立学校振興・共済事業団理事長、慶應義塾学事顧問)。 (つづく)
BLOGブログ
前の記事へ竹田恒泰「男系天皇の伝統」のうそっぱち