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高森明勅
2022.7.25 08:00皇室

皇室の祖先神、天照大神は本当に「女性」なのか?

皇室の祖先神は天照大神。
皇居・宮中三殿の中央にある賢所〔かしこどころ〕に祀られている。
伊勢神宮(内宮〔ないくう〕)のご祭神〔さいじん〕であることは
改めて言うまでもない。
表記は天照大御神、天照坐皇大神など。

その性別は「女性」とされている。
日本神話の最高神であり、皇室の祖先神が“女性”というのは、
男尊女卑、女性差別的な価値観とはかけ離れた、
ユニークな事実だろう。

ところで、天照大神が女性というのは、
何故そのように言えるのか? 
念の為に、手短におさらいしておく。

正式な国家の歴史書(正史)である『日本書紀』の記述を見ると、
性別を知る次のような手がかりがある。

①神名が「大日レイ(雨+口×3+女)貴〔おおひるめのむち〕」
「天照大日レイ(同前)尊〔あまてらすおおひるめのみこと〕」
(肝心な“レイ〔雨+口×3+女〕”という漢字が特殊な文字なので、
ちゃんと変換できず、残念。諸橋轍次氏『大漢和辞典』第3巻、
773ページなど参照)と表記されている。

これは、『万葉集』に「天照日女之命〔あまてらすひるめのみこと〕」
「指上日女之命〔さしのぼるひるめのみこと〕」(巻二、167番歌)
とあるのに対応し、“女性”であることを示す。

②弟神の素戔嗚尊〔すさのおのみこと〕の来訪に対し、
警戒して対面する場面で、髪型を男性の髪型(髻〔みずら〕)に変更し、
女性が穿〔は〕く裳〔も〕を縛って男性が穿く袴〔はかま〕のようにした。

③素戔嗚尊から「姉〔なねのみこと〕」と呼ばれている。

正史ではないが、『日本書紀』(720年)よりも前に成立した
『古事記』(712年)でも、上記の②はほぼ共通している
(但し裳を袴のように縛り直す場面は描かれていない)。

なお、「日女之命」という表記がある『万葉集』中の和歌は、
草壁皇子が亡くなられた時(689年)に柿本人麻呂が詠んだもの。

以上から、天照大神が“女性”であることは疑う余地がないだろう。

ちなみに、『日本書紀』では高皇産霊尊〔たかみむすひのみこと〕
について「皇祖〔みおや〕」と明記している。
これは、天照大神の孫(天孫)として天上から
地上に降臨した瓊瓊杵尊〔ににぎのみこと〕の“母親”が、
高皇産霊尊の娘・栲幡千千姫〔たくはたちぢひめ〕だったことによる。
つまり女系(!)を介した“皇祖”ということだ。

シナ男系主義の大きな影響を受けていた『日本書紀』でさえも、
「女性」「女系」の“皇祖神”を明記していた事実は、興味深い。
もちろん、神話と歴史は混同すべきではないものの、
日本神話にわが国“本来”の価値観・世界観が反映していることも、
見逃せないだろう。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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