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高森明勅
2022.2.11 10:00皇統問題

皇室の方々の「家族の一体性」を破壊する政府プランの危険性

政府は、先頃の有識者会議報告書をそのまま、
自らの検討結果として国会に伝えた。
しかし、その内容は予想を越えた酷さと言わねばならない。
その中でも、(憲法第1章が“優先的”に適用され、皇統譜に登録される)
皇族と(同第3章が“全面的”に適用され、戸籍に登録される)国民が
夫婦、親子などとして「1つの世帯」を営むという制度設計は、
さすがに無理があり過ぎるだろう。

女性皇族と国民男性の家族?

政府が提案したプラン①では、内親王・女王方はご婚姻後も、
そのまま皇族の身分を保持される。
一方、その配偶者やお子様は国民であり、国民としての
自由や権利を全て保障される(有識者会議報告書10ページ)。
それは、一般国民から内親王・女王と“一体”と見られることが避けにくい、
配偶者やお子様が特に制限なく、政治・経済・宗教
などについて自由な活動が認められることを意味する。

そのような制度が憲法上、「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」
(第1条)であって、「国政に関する権能を有しない」(第4条第1項)
とされる天皇及び皇室のお立場と両立し難いことは、
既に指摘して来たし、これからも様々な形で
発信し続けるつもりだ。
しかし、ここでは別の切り口として、
ご家族としての“一体性”が果たして保たれるのか、という問題を提起したい。

皇族家族の一体性

そもそも、皇室典範では皇族における
「家族の一体性(=身分の同一性)」を明確に求めている。
そのことがよく分かるのは、第13条の規定だ。

「皇族の身分を離れる親王又は王の妃並びに直系卑属及びその妃は、
他の皇族と婚姻した女子及びその直系卑属を除き、
同時に皇族の身分を離れる。
但し、直系卑属及びその妃については、皇室会議の議により、
皇族の身分を離れないものとすることができる」

法律を読み慣れていない人には、すぐにピンと来ないかも知れない。
分かりやすく噛み砕くと以下の通り。

皇族のご家族において、何らかの理由(自らの意思や懲戒的な事情など)で
夫(親王・王)が皇籍を離脱する場合は、原則として妻(妃)も
お子様やお孫様など(直系卑属)及びその妻(妃)も、
同じく皇籍を離脱する(皆様、一緒に国民となられる)。
これは「家族の一体性(=身分の同一性)」が求められているから、
と理解できる。

但し、例外が2つある。

その1は、「女子」が既に他の皇族に嫁いでおられた場合。
その方やそのお子様などは、その女子の夫(親王・王)と
同一の皇族の身分のままとする。これは、女性皇族の場合、
ご婚姻相手の男性皇族の身分との“同一化”という要素が加わる為だろう。

その2は、皇室会議が特に“例外扱い”を認めた場合には、
お子様など(直系卑属)やその妻(妃)は、そのまま皇籍にとどまられる。
これは、皇族数の減少を防ぐとか、懲戒の連座的な適用を避けるなど、
特別な事情を想定できる。
この場合も、皇籍を離れる男性皇族の妻(妃)は例外扱いされない
(元々皇族だった場合も、夫と共に皇籍を離れる)。
それだけ、夫婦の身分の同一性への規範的要請は“より”強いことを示す。

「象徴」の立場を支える異質性

憲法第2条に「皇位は世襲」との規定がある。
にも拘らず、それに“マイナス”に作用するはずの、
親と共に「直系卑属」も皇籍離脱する規定を、
皇室典範はことさら設けている。これは何故か。

それは「家族の一体性(=身分の同一性)」という
価値を優先した為に他ならないだろう。

「家族の一体性(=身分の同一性)」を優先したのは、
漠然と一般通念に依拠にしたのではなく、憲法上の明確な根拠がなければ、
法律に過ぎない皇室典範が最高法規である憲法の「世襲」規定
(第2条)の“足を引っ張る”ような制度を敢えて設けることは、
できないはずだ。

その根拠は何か。憲法は「天皇」について、
「象徴制」と「世襲制」を定めている。
そこから消去法で考えると、根拠は恐らく「象徴」規定
(第1条)と考えられる。

“象徴するもの”と“されるもの”との関係は、
“代表するもの”と“されるも”のが互いに同質であるのに対し、
「異質」であることが前提となる。
その異質性を担保する為に、皇室を構成する皇族の家族の中に
「国民」が“混在”することは、制度的に除外される必要があった。
つまり、皇族における「家族の一体性(=身分の同一性)」は、
天皇の“象徴として立場”を支える基礎だったと考えられる。

養子の縁組前の子は国民

ところが、政府のプラン②旧宮家系男性の養子縁組案でも、
縁組の時点で既にお子様がいた場合、そのお子様は国民のままとするという
(報告書12ページ)。
ここでも、同じ家族の中に、“親が皇族で子が国民”という形で、
皇族と国民が混在する可能性を抱えている。
更に縁組後、お子様が生まれ、そのお子様に皇族の身分が
(トリック的に!)認められる場合
(この点、報告書自体には何も言及がない)、
兄弟姉妹の中で、縁組“前”に生まれた子=国民と縁組“後”に
生まれた子=皇族が混在することになる。

ちなみに、養子の妻の位置付け(皇族になるのか、国民のままなのか)
については、縁組前後に関わらず、全く言及がない。
驚くべき杜撰さだ。

いずれにせよ、家族の中に皇族と国民が混在する政府のプラン①②は共に、
憲法及び皇室典範が求める「家族の一体性(=身分の同一性)」という、
象徴天皇の基礎となる価値を損なう。
勿論、当事者の方々にとっても、不自然極まりない制度だろう。
こうした点からも、政府の提案はとても受け入れられない。

追記

皇室典範第13条については、横田耕一氏「『皇室典範』私注」
(横田氏ほか編『象徴天皇の構造―憲法学者による解読』平成2年)、
園部逸夫氏『皇室法概論』(平成14年)などに解説がある。
それらを踏まえて、私独自の視点から見解を述べた。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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