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高森明勅
2021.10.4 12:00皇室

天皇・皇族は憲法上、基本的人権を認められるのか、どうか?

皇室の方々に人権は認められるのか。
憲法上、基本的人権の享有主体として位置付けられるのか、どうか。

《皇室と人権の関係》

これについては従来、主に3種類の考え方がある。
A説は天皇・皇族共に基本的人権の享有主体である「国民」
と見る立場(宮澤俊義氏・佐藤功氏・芦部信喜氏ほか)。
一般の人達には少し意外かも知れないが、実は長年、これが通説とされて来た。

それに対して、B説は天皇と皇族を区別する。
その上で、天皇は基本的人権の享有主体たる「国民」ではない一方、
皇族については享有主体の「国民」と認める(伊藤正己氏ほか)。

更にC説では、天皇・皇族共に「国民」には含まれず、
享有主体ではないとする(佐藤幸治氏・長谷部恭男氏ほか)。

「天皇・皇族は、憲法が例外的に認めた身分制の『飛び地』」
(巻美矢紀氏ら『憲法読本〈第2版〉』)と見る立場だ。
しかし、それらのどの立場でも、憲法が定めた「象徴制」
・「世襲制」に基づく制約により、憲法第3章が国民一般に
保障する自由と権利は、全面的ないし大幅に制約されざるを
得ないとする“結論”では、ほぼ共通している。

《人権の引き算》

政府の立場はどうか。

「一般的に基本的な人権をお持ち」だが、
「象徴としての地位をお持ち」なので「そういう方面からする
制約はございます」
(昭和54年4月19日、衆院内閣委員会での真田秀夫内閣法制局長官の答弁)
という見解。

A説に近いだろう。

A説は素人目には、天皇・皇族の人権を最も尊重する立場のようで、
これまでの実情を見る限り正反対だった。
何故そのようになるかと言えば、「象徴制」・「世襲制」を理由として、
次々に“引き算”が行われて来たからに他ならない。

象徴だから、世襲だから、という理由付けで、
自由や権利への引き算が(恐らく過剰に)積み重ねられ、
最後は人権として認められる内実はほとんど残らない―という
帰結に落ち着かざるを得なかった。

《足し算は可能か?》

C説(天皇・皇族は国民とは区別された特別の地位にあるという見方)は、
その「飛び地」性を根拠に、あらゆる人権が締め出されてしまう
危険性を否定できない。

例えば、長谷部氏は「『飛び地』の中の天皇に人類普遍の人権が認められず、
その身分に即した特権と義務のみがあるのも、当然」とする(『憲法〈第5版〉』)。

一方、逆に「その特別な地位にふさわしい、
いわゆる『人権』の保護を正当に行うことが可能になるのではないか」
という意見がある。

そのロジックは、以下の通り。

「象徴制」「世襲制」を規範(かくあるべきもの)として見ることで、
「個々の人権との関係で、『象徴の地位にあるから、
…の点について保護されるべきである』とか『世襲の地位であるから、
…の点について保護されるべきである』というように、
『象徴制』と『世襲制』を人権の制約要因としてのみでなく、
人権の保護要因として考えることが可能」になる
(園部逸夫氏『皇室法概論』)と。

つまり、引き算ではなく、
“足し算”も可能ではないかというのだ。
傾聴に値する指摘だろう。

《皇室の人権をいかに保護するか》

私自身としては、天皇・皇族はもとより「国民」の範疇には
含まれないと考える。

だから、憲法第3章が「国民」に対して保障する自由や権利は、
天皇・皇族に全面的には適用されず、第1章の要請が優先されると、
整理している。

但し基本的人権は元々、地位や身分などに関係しない
「人間の本来の権利」(法学協会編『註解日本国憲法(上)』)と
定義される以上、国民には含まれない天皇・皇族についても、
第1章の「世襲制」「象徴制」と絶対的に両立しない場合
(この点、従来はややもすると過大に考慮される傾向があった)
を除き、十分に尊重されるのが当然ではないか。

そうでなければ、憲法の規定の仕方次第で「人類普遍の人権」を
自由自在に“刈り込める”、という危険な話になる
(長谷部氏にその自覚はあるのだろうか)。

A・B・C説に共通の落とし穴は、「国民」だけ(!)が
「基本的人権の享有主体」であると、決め付けていることだろう
(外国人や法人の問題は一先ず横に置く)。

それに加え、先ほどの“足し算”にも配慮した対応が
(法的な整備も含めて)執られると、これまで皇室の方々が
置かれ続けて来た、目に余る人権無視や人権侵害が横行する
“人権空白の飛び地”的状況が、少しは改善されるのではあるまいか。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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