戦前の不敬罪の運用には反省すべき点も勿論あっただろう。
しかし、今の憲法の下でも不敬罪は認め得る、
という裁判所の判決も下っていた(プラカード事件の際の第2審判決、
昭和22年6月28日、東京高裁)。「天皇個人に対する誹毀誹謗の所為は依然として
日本国ならびに日本国民統合の象徴にひびを入らせる
結果になるもので、従ってこの種の行為にたいして刑法不敬罪の
規定が所謂(いわゆる)名誉毀損の特別罪としてなお存続している」と。当時の吉田茂首相も「国民感情と道徳的信念に照し、
合致しない」と不敬罪の廃止には反対していた
(外務省特別資料部第1課・田村豊氏『皇室に関する
諸制度の民主化』)。にも拘らず廃止されたのは何故か
(昭和22年10月26日、刑法の一部改正により)。理由は簡単。
GHQがそれを求めたからだ。
では、GHQは何故、不敬罪の廃止を求めたのか。
国民の天皇への尊敬心が、日本を戦争へと駆り立てた
「超国家主義の源泉」と考えたからだ。
その因果関係を疑う以前に、そもそも日本がやむなく
対米戦争に突入したのは何故か。
アメリカによって、戦争しか選択肢が無い局面に迄、
追い詰められたからに他ならない。
アメリカが日本への石油の輸出を全面的に禁止したこと
=アメリカ側からの事実上の戦争行為が、その主な動機。「当時の見方では自衛権の発動」(京都大学教授・中西寛氏)だった。
この点については、昭和天皇の認識(『昭和天皇独白録』)と、
後に行われたマッカーサー本人によるアメリカ議会での証言
(1951年5月3日、アメリカ議会上院・軍事外交合同委員会)が、
見事に一致している。GHQトップのマッカーサーすら
「彼ら(日本)が戦争に飛び込んでいった動議の大部分が
安全保障の必要に迫られてのことだった」と見ていたのだ。
従って、不敬罪の廃止は何ら合理的な根拠を持たない。
にも拘らず、不敬罪は廃止され、私が前にも指摘したように、
それに代わり得る法的な措置も取られていない。皇室への名誉毀損・侮辱の行為に対処する法的な仕組みが、
事実上、全く空白のまま、現在に至っている。
憲法は、「世襲」の「象徴」天皇という特別な地位を設け、
それを支える「皇室」という存在を、当然の前提としている。
なのに、その名誉・尊厳を法的に守る術が(天皇・皇后・皇嗣の
告訴権を首相が代行するという、実際にはほとんど機能しない
刑法上の規定以外は)無い。
実に奇妙だ。と言うより、当事者の方々にとっては理不尽極まりないことだろう。
そんな状態が長年、放置され続けている。
しかし、政治家も国民も驚くほど無関心であり、冷淡だ。
先ず、多くの人々にこの事実を知って欲しい。【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
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