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泉美木蘭
2021.1.7 18:23

「公立か民間か」より「公のため」に考えないことが問題

『産経抄』に、スウェーデンは死者は多いが、
病院のほとんどが「公立」であるため、
病院同士の連携や機能分担がスムーズに行われ、
医療崩壊は起きていないということが書かれていた。
一方、日本は病院の約7割が民間経営で、
厚労省も日本医師会も病院に指揮命令する立場になく、
一部の医療機関だけがひっ迫し、そうでない病院は
閑古鳥で経営危機に陥っているのだという内容だった。

たしかに、日本の公立病院は全体の2割程度、
日頃ライバル関係にある民間病院は、連携がとりづらい
という一面は指摘されている。
そういう問題が浮上したのは理解できるけれども、
ただ、ヨーロッパのように「公立」ならば良かった
という話でも
ないように思った。

スウェーデンのように高福祉・高負担の国、
イギリスのように税金で医療費をまかなっている国、
日本のように国民皆保険制度の国、
アメリカのように無保険者は医療を受けられない国、
国ごとに医療制度の成り立ちや、財源がまるで違う。

日本は、全国津々浦々に病院があり、
どこでも誰でも当たり前のように病院にかかれて、
いろんな検査をスピーディーに受けられる、
そんな医療の充実度が保たれていて、おまけに、
「世界一の病床数、CT、MRI保有台数を誇る」と言える。
それは、日本の医療が、民間の開業医中心で発展したから
ではないのだろうか?

すべて公営となると、こうはいかないはずで、
だからこそヨーロッパの医療制度は、
「医者にかかるには、まず家庭医に予約して数日待ち、
さらに、専門医の予約をとって数週間待ち……」
という制度で組み上げられているのだと想像する。

もちろん、医療費が膨れ上がり、無駄な検査や投薬の問題、
大学病院に軽微な風邪や腹痛の人が駆け込んできて困るなど
見直すべき欠点はあるけれども、
根本的に、日本の医療制度を充実させているのは、
日本独特の、民間経営×国民皆保険制度があってのことだろう。

医療制度は、国民の安心感とも関わる話だし、
医療機関の連携の問題については、
医師会が「医療の公共性」という視点から、
もっと責任を持って日頃から積み重ねておくべきことだったの
ではないか? そのための存在が「医師会」なのではないか?
だからこそ、医師会会長などが国民を脅迫し、
失業に追い込もう
とする姿が自己保身にしか見えず、腹立たしいのだ。
産経新聞は、そこを指摘するべきだ。

民間の病院が、コロナ患者を受け入れられないのは、
コロナを2類の指定感染症として扱わなければならないために、
感染防護対策や、院内感染が起きたときの風評被害など、
経営上の壁が立ちふさがり、動くに動けないことがある。
そこには、高齢の患者で病床を稼働させていることも関わって
いるのかもしれない。
そして、なによりもこのような「風評被害」「診療圧迫」の
元凶は、コロナ恐怖を煽るマスコミだ。
マスコミは、コロナが怖いウイルスであってほしい、
「強毒の指定感染症」のままであってほしいと思っているのでは?

それから、厚労省の判断もおかしい。
そもそも、医師法には、

「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、
正当な事由がなければ、これを拒んではならない」

とあり、むやみな診療拒否はできないはずだが、

令和元年12月に、厚生労働省から

「特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき
診療しないことは正当化されない。ただし、1類・2類感染症等、
制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症に
り患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない」

という通達が出されている。
実際に、医師向けのサイトには、この通達と過去の裁判例をもとに、
医療系の法律家が、
「コロナ疑い患者の診療拒否は認められる」と結論していた。

診療拒否を正当化する通達を出しておきながら、
コロナを2類のままに据え置けば、
こうなることは簡単に予測
できたのでは?

「国」の判断がこれなのだから、やっぱり「公立か民間か」の
問題ではないと思えてくる。
誰も「公のため」に考えていないことが一番の問題なのだ。

長かったな。ライジングに書けばよかった。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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