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笹幸恵
2020.12.21 19:17日々の出来事

日経コラム「読む!ヒント」から学ぶこと。

今日の日経新聞のコラム「読む!ヒント」は、
「敗戦75年 日本なぜ開戦?」と題して、
さまざまな書籍の内容を踏まえつつ
明治時代の大陸進出から対英米戦突入の経緯を振り返っている。
全体を俯瞰して、よくこんなにコンパクトに
まとめられたなあと読んで非常に勉強になった。

興味深いのは後半。
なかにし礼の自伝的小説『赤い月』を引いて、こう紹介している。
「登場人物の一人は国だけでなく『国民も一緒になって
小さな化け物になっていく』と語る。大陸進出を
多くの日本人が支持し、幻の国をつくったことを示す」

さらにこう続けている。
「井上寿一著『日中戦争』は、政党や国民が大陸進出、
戦争に協力したと指摘する。国の強制ではなく
自発的だったのは『政治的、経済的、社会的地位の上昇』が
期待できたからという。
 民主主義が未熟だった。昭和恐慌で農村は窮乏し、
倒産が続出、都会は失業者であふれた。
政党や財閥への不信が広がり、軍国主義が勢いづく。
政治の中心が危機に対応できない政党から、軍部へと
急速に移る」

これは無謀と戦後さんざん言われた対米英戦に
最終的に突入する要因の一つで、
全体主義化していく様相を簡潔に記しているのだけど、
気が付けばこのコロナ禍で日本人はまったく同じ態度を取っている。
マスク警察や自粛警察などは、
『国民も一緒になって小さな化け物になっていく』、
その典型だろう。
井上寿一の「政党や国民が大陸進出、戦争に協力した」
という指摘も重要だ。
モーニングショーの玉川徹は、何かというと
政権批判に日本軍を持ち出すけれど、
日本軍を圧倒的に支持したのは国民なのだ。
彼には、それをどう考えるのかという視点が
決定的に欠落している。

以下は、こんなふうに言い換えられる。
「国の強制ではなく自発的だったのは
『自粛さえすれば万事解決』という非科学的な安心感が
期待できたからという。
 民主主義が未熟だった。どんなにGoToを取りやめても、
専門家会議が訴えても、感染拡大は止まらず、
政権への不信が広がり、(それを批判する)マスメディアが勢いづく。
政治の中心が危機に対応できない菅政権から、
マスメディアへと急速に移る」

かくして軍部主導ならぬマスメディア主導の
全体主義は出来上がる。

ちなみに「民主主義が未熟だった」という
一文には留保をつけたい。
過去形だから、今は「民主主義が成熟している」
という意味になる。
それならなぜコロナ禍で全体主義的様相を呈しているのか、
説明がつかない。

民主主義という政治形態の問題ではない。
どんなに民主的な政治形態をとっていようとも、
どんなに民主主義が立派な着衣に見えたとしても、
そこから独裁国家は生まれるし、人はたやすく全体主義に
流され、呑み込まれる。
歴史から学ぶべきは、この点なのだ。
何かの政治形態や制度が完璧ということはない。
それを運用する人間の問題だ。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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