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高森明勅
2020.9.12 06:00日々の出来事

新・日本書紀?

9月5日、日本教師塾。
今期の2回目だ。
研修テーマは“「日本書紀」パート2”。
普通に考えると授業では扱いにくい素材だ。

1コマ目(60分)は3人の先生方が授業提案。
トップのY先生はビブリオバトルの形式を利用された。
まず古事記と日本書紀の特色についてポイントを絞って紹介。
その後、児童達にどちらが好きかを選ばせ、その理由も述べさせる。
ほとんどの子供が古事記を選んだ中でも、日本書紀を選ぶ子も何人かいたそうだ。
そういう子の意見を丁寧に聴いて欲しい。

I先生は邪馬台国と卑弥呼を取り上げられた。
卑弥呼を①天照大神、②ヤマトトトヒモモソヒメ、③神功(じんぐう)皇后、
それぞれに比定する3種類の見方を紹介した上で、それらの中でどれに
共感するかを児童達に尋ねた。
それぞれ同数位に分かれたとか。
子供達は、歴史には多様な捉え方があることを感じ取れただろう。

しかし、今回のテーマの日本書紀とはほとんど無関係。
むしろ戦後歴史学の世界では、日本書紀“否定”の文脈から、
魏志倭人伝の邪馬台国や卑弥呼がクローズアップされた経緯がある。
もちろん、I先生にそのような意図があった訳ではないのだが。

K先生は出色の授業。
子供達に1枚の画用紙で「新・日本書紀」を作らせた。
「自分が日本書紀の作者になったつもりで、平成の時代から一番大きな出来事を
“1つ”だけ取り上げる」という課題。
児童の作品を拝見したら、(わざと外した少数の子を除き)ほとんどの子供達が
「東日本大震災」を取り上げていた。
しかも、その全員が上皇陛下が被災地にお出ましになった時のお写真を
掲げている。

興味深いのは、そのお写真の選び方がそれぞれ児童によって違うこと。
自分で一生懸命に選んだのだろう。
さらに、誰もがお写真を綺麗に切り取っていて、陛下のお顔やお身体の
部分に触れないように気づかっていた。
K先生が平素、どのような授業をされているかを、思い浮かべることができる。
余白に書き込まれた文章も、それぞれ子供達自身の言葉で、上皇陛下への
感謝の気持ちを素直に表現していた。

子供達に自分の「新・日本書紀」を作らせた上で、本物の日本書紀が「天皇」
を軸にしてまとめた歴史書であることを説明すると、児童はみんな
ごく自然に納得するだろう。
何しろ、自分達自身がみんな、天皇を「軸」にした作品を、(無意識のうちに)
完成させたのだから。
日本書紀を小学生にこれほど身近に感じさせる授業が可能だったとは。
驚いた。
やはりK先生は“天才”と言うしかない。

その後、2コマ、私が講義を行った。
以下は当日の感想文から。

「古事記が天皇という君主号が登場するまで、日本書紀が日本という
国号が登場するまで(を扱った文献)というのは特に驚きでした」
(I先生、男性)

「正史ということで、かたいイメージがあった日本書紀ですが、
ドラマがかくされている事を教えていただき、やはりちゃんと
読まなくてはと思いました」
(W先生、男性)

「先生が『本居宣長を尊敬するのはかまわないが(その日本書紀批判を
鵜呑〔うの〕みにする前に)本当に原文を読んでいるのか』
というお話が印象的です」
(S君、男性)

「『最古の歴史書』の中で『(当時の人が)歴史を振り返る』記述が
出てくるという事実に驚きました」
(Y先生、男性)

「先生の話は専門的で、あっという間に引き込まれました。
なるほど、そういう意味なのかと驚きの連続でした」
(U先生、男性)

「本居宣長の話にあったヤマトタケルノミコトについて、一文字に着目し、
丁寧に読むことで、内容への理解は全く違うものになることを
教えていただきました」
(O先生、女性)

「(書名の“紀”について)糸偏を用いた紀に最高君主がいる独立国という
意味を読み取ることができる、というお話が印象に残っております。
冊封(さくほう)体制からの脱却という視点を…読み取ることが
できるという新しい観点にハッとしました」
(H先生、男性)

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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