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高森明勅
2020.8.2 06:00皇統問題

「男系」限定のゆくえ

皇室の「聖域」性を守りながら、皇位の安定継承を目指すには、
どうすれば良いか? 

皇統問題の焦点は“この1つの問い”に集約できる。
前提となるのは、これまで皇位と宮家の「男系」継承に絶大な貢献をしてきた
側室が不在で、非嫡出による継承の可能性が無くなったこと。

従前、正妻たる方に男子がお1人も生まれなかったのは、天皇で約35%、
宮家(4世襲親王家)で約54%、という高い比率だ。
つまり、3代又は2代に1人以上の割合で、男子に恵まれておられない。
宮家の場合、側室出自の非嫡出による継承が可能でも、伏見宮の系統を除き、
全て廃絶したという事実がある。

だからリアルに考えて、一夫一妻という現代では当然の条件下で、
明治以来の「男系男子」という縛りをそのまま維持すれば、
皇位の継承も宮家の存続も、“必然的に”行き詰まる他ない。

現に、いわゆる旧宮家もかつては11家あったが、これまでに次々と廃絶している
(新しく皇籍取得を検討する場合に対象となり得るのは賀陽〔かや〕・久邇〔くに〕
・東久邇・竹田の4家のみ)。

仮に、皇室典範を改正して旧宮家系国民男性の何人かが(結婚という人生の
一大事を介さないで)皇籍を取得したとしても(勿論、実際には至難だが)、
上記の縛りを続ければ、「早晩行き詰まる」という結果に何ら変わりはない。

但し旧宮家系男性以外にも、国民の中には神武天皇の「男系」の血筋を
(遥かに遠く)引く人は、多数いる。
なので、「男系」が途切れそうになる度(たび)に、果てしなく血縁が
離れているそれらの人々を“次々に”皇室に迎え入れるという、
突拍子(とっぴょうし)もない方策を、真面目に唱える人が出てくるかも知れない
(ちなみに歴代天皇のうち、天皇からの血縁が最も遠かった26代・継体天皇は
5世で、即位前でも皇族の身分のままだった。

旧宮家系の対象者は20世以上の民間人)。
皇室と国民の大切な“区別”を曖昧にする旧宮家論の延長線上に、
男系限定の最後の逃げ場として、いずれ浮かび上がって来かねない
危うい提案だ(もっとも、憲法が規定する「世襲」にそこまで含まれ得るかは、
もとより疑問)。

しかし、万が一にもそのような方策が採用された場合、
それまで皇室と全く無縁だった一般国民が、いつでもやすやすと
皇族になれてしまうという話なので、皇位の尊厳も皇室の「聖域」性も、
たちまち失われることになろう。

国家秩序の頂点としての権威も、国民結合の中心としての求心力も、
皇室に伝わる公正無私・一視同仁(いっしどうじん)の伝統精神の継承も、
とても期待できない。

そのような皇室に対し、国民の多くが素直な敬愛の気持ちを抱くとは
考えられない。

かくて、皇室の高貴さを守りながら、将来に向けて皇位の安定継承を
目指す為に、実際に選び得る選択肢は、結局、“1つ”しかないことが
分かるはずだ。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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