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高森明勅
2019.9.4 06:00皇室

古事記の「倭」という表記

古事記には「日本」という言葉が一度も登場しない。
全て「倭」だ。
これは何故か。

重大な問題のはずなのに、従来さほど注目されて来なかった。
同書が成立した和銅5年(712年)には、既にわが国の国号は「倭」から
「日本」に改まっていた(訓読みはどちらもヤマト)。
『令集義(しょうのしゅうげ)』公式令(くしきりょう)「詔書式」条に
引用する『古記(こき)』(天平10年=738年頃の成立)が、更に
『大宝令(たいほうりょう)』(大宝元年=701年の施行)の条文を引いている。
そこに「日本」国号が見えている。
従って、「日本」国号の“下限年代”をここに押さえる事が出来る。
にも拘らず、古事記は「倭」という表記で統一した。神武(じんむ)天皇は
「神“倭”伊波礼ビ(田+比)古命(かむやまといわれびこのみこと)」であり、
ヤマトタケルノミコトは「“倭”建命」。

『日本書紀』(養老4年=720年に成立)が「日本」で統一しているのとは正反対だ。
しかし、実は理由は簡単。『古事記』の本文そのもの(少なくともその多くの部分)
は「日本」国号が成立する“前”に書き上げられていた。
それを最終的に「撰録」した太安萬ロ(人+呂)(おおのやすまろ)が極力、
原文を尊重しながら(訓み方を知る手助けとなる注記を補足するなどして)
完成させたからだ。

しかも興味深い事実がある。
『古事記』は周知の通り、「天皇」という君主号は普通に使っている。
つまり「天皇」と「倭」が併用されていた。
これは、一部の学説が主張する、「天皇」号と「日本」国号が“同時”に
成立したという見方を、厳しく否定する。
「天皇」は「日本」に先んじて成立した。
『古事記』はその事実をはっきりと指し示している。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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