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高森明勅
2019.1.29 21:00政治

「北方領土」無き施政方針演説

1月28日、国会が召集された。
 
天皇陛下は国会開会式への最後のお出まし。
 
定例の健康診断のご日程を調整されて式に臨まれた。
 
安倍首相の施政方針演説には驚いた。
 
先頃、25回目(!)の日露首脳会談を
行ったばかりだというのに、「北方領土」
という言葉が1度も使われなかった。
 
日露関係への言及は以下の通り。
 
「ロシアとは、国民同士、互いの信頼と友情を深め、
領土問題を解決して、平和条約を締結する。
戦後70年以上残されてきた、
この課題について、次の世代に先送りすることなく、
必ずや終止符を打つ、との強い意志をプーチン大統領と共有しました。
首脳間の深い信頼関係の上に、1956年の日ソ共同宣言を基礎として、
交渉を加速してまいります」
 
これで全文。
 
見ての通り、
「北方領土」という言葉は一切、出て来ない。
 
ロシアが「北方領土という言葉は適当ではない」
と言い張っているのを配慮した結果としか思えない。
 
巧妙に「北方領土」という言葉を避けている。
 
ロシアがそんな主張をするのは、
盗人猛々しいとしか言い様がないものの、
一先ずかの国の勝手。
 
だが、我が国の首相がそれに歩調を合わせてどうする。
 
これほど迎合的で本当に
「領土問題を解決」できるのか。
 
しかも、「領土問題を解決して、(その後に!)
平和条約を締結する」というのは東京宣言(平成4年)での立場だ。
 
安倍氏が「基礎」にするのは東京宣言ではない。
 
それより遥かにロシア側に擦り寄った
日ソ共同宣言(昭和31年)。
 
こちらは
「平和条約を締結して→面積7%の2島だけを引き渡す」
という、我が国にとって極めて不利な内容
(“→”の部分がスムーズに移行するかも不透明)。
 
そんなものを「基礎」にして、一体どうやって
「領土問題を解決して→平和条約を締結する」ことができるのか。
明らかな矛盾だ。
厚顔無恥な二枚舌でなければ、
例の“負ければ解決”を狙っているとしか考えられない。
 
「次の世代に先送りすることなく」とか、
「交渉を加速」という表現は、安倍氏が自分の任期中に、
何とか目先だけでも“手柄”を立てようと、
「レガシーづくり」に前のめりになっている心理が、丸見え。
 
その為には、肝心な「北方領土」という言葉すら隠す。
 
プーチン大統領がこの演説を知れば、
会心の笑みを浮かべるだろう。
 
画像:Timofeev Sergey / Shutterstock.com
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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