10月20日に公表された皇后陛下のお誕生日に際しての
宮内記者会への文書でのご回答。そこには次のようなご文章が。「公務を離れたら何かすることを考えているかとこの頃よく尋ねられるのですが、これまでにいつか読みたいと思って求めたまま、手つかずになっていた本を、これからは1冊ずつ時間をかけて読めるのではないかと楽しみにしています。読み出すとつい夢中になるため、これまで出来るだけ遠ざけていた探偵小説も、もう安心して手許に置けます。ジーヴスも2、3冊待機しています(イギリスのユーモア小説の大家、P・G・ウッドハウスの作品、
ジーヴスシリーズ―高森)。また赤坂の広い庭のどこかによい土地を見つけ、マクワウリを作ってみたいと思っています。こちら(皇居)の御所に移居してすぐ、陛下の御田(おた)の近くに1畳にも満たない広さの畠があり、そこにマクワウリが幾つかなっているのを見、大層懐かしく思いました。頂いてもよろしいか陛下に伺うと、大変に真面目なお顔で、これはいけない、神様に差し上げる物だからと仰せで、6月の大祓(おおはらい)の日に用いられることを教えて下さいました。大変な瓜田(かでん)に踏み入れるところでした(元〔げん〕の左克明〔さこくめい〕の『古楽府〔こがふ〕』に「瓜田に履〔くつ〕を納〔い〕れず、李下〔りか〕に冠〔かんむり〕を正さず」とあるのを踏まえた表現―高森)。それ以来、いつかあの懐かしいマクワウリを自分でも作ってみたいと思っていました。皇太子、天皇としての長いお務めを全うされ、やがて85歳におなりの陛下が、これまでのお疲れをいやされるためにも、これからの日々を赤坂の恵まれた自然の中でお過ごしになれることに、心の安らぎを覚えています。しばらく離れていた御用地が、今どのようになっているか。日本タンポポはどのくらい残っているか、その増減がいつも気になっている日本蜜蜂は無事に生息し続けているか等を見廻り、陛下が関心をお持ちの狸(たぬき)の好きなイヌビワの木なども御一緒に植えながら、残された日々を、静かに心豊かに過ごしていけるよう願っています」思わず、涙ぐんでしまう。慈味溢れるご文章。珍しく、僅かにおどけた調子さえ漂わせ、皇后陛下の「心の安らぎ」が温かく伝わってくるようだ。天皇陛下のご譲位を可能にする法整備に、ほんの端っこながら関わらせて戴いた1人として、
心から喜ばしく思う。