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笹幸恵
2018.10.20 00:51日々の出来事

ヘルニア日記4

激痛やしびれに悩まされることは
減りつつあります。
上半身をまっすぐにして歩けるようになりました。
が、腰から左脚にかけて、
鈍痛がしつこーーーく残っている。
筋肉のこわばりのようでもあるし、
関節がきしんでいるようでもあるし、
筋を違えてしまっているようでもあって、
形容しがたい鈍痛が、ずっとついて回る。

外出するときは、お守り代わりに杖を持つ。
階段(とくに下り)が怖いので。
最近では街中で杖を持ったじいちゃんばあちゃんを
見つけては勝手に親近感を覚えている。

電車に乗るのも怖かった。降りたら降りたでまた怖い。
人の波に乗れないので、できるだけ端っこ(手すりあるし)を
選んで、「申し訳ない」と後ろの人に心の中で謝りつつ
えっちらおっちらホームの階段を上っている。
けど、高校生の男の子がじつにスマートに
席を譲ってくれたりして、ホッとする。
社会に受け入れてもらえていると感じられるから。
そう。私はいま、弱者なのだ。

横断歩道の信号が点滅しても慌てない。
電車の発射音が鳴っていても飛び込まない。
エスカレーターも、今まではじっと運ばれるのが
堪えられなくてセカセカ歩いていたけど、
今はゆっくり乗って泰然自若。
ふふ、これが弱者の心の余裕というものか。

だんだんと図々しくなってきて、
優先席が空いていたら迷いなく座るようになった。
あるとき、杖をついた「弱者の私」を押しのけて
シルバーシートに座った女がいた。
降りるまで、じーーーっと睨み続けてやった。
あんた、どう見てもどこも悪そうに見えないけど、
なんで優先席座ってんだよ。しかも私を押しのけて。
どういう了見なわけ?スマホ?スマホ出してるの?
そんな元気あるなら立ってやれよ!このクソババア!
みっともないと思わないの?そういうエゴ丸出しの生き方、
みんな見ているよ。外ヅラにも出るよ。ああ、そうね。
確かに化粧はしていても貧相でひからびた感じ。
それに気づかないんだからかわいそうな人だね、あんた・・・。
(あと5分くらい罵倒が続く)
ふふ、これが弱者の心の怒りというものか。

今日なんか、診察の帰りの電車で、
大学生男子ふたりがファッションの話をして
盛り上がっていた。
「杖をついた弱者が目の前にいるではないか!」と
念を送ってみたけど、やつらにはきかなかった。
ついに私は杖で彼らの靴をブスブスと突きまくった。

肥大化しつつある弱者の権利意識をナメんなよ!!!
弱者って、強いぞ!
(……まじで人格変わりそうだわ)

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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