私がほぼ毎日使う東急電鉄の駅には、
「スマホ歩き」と「電車内での化粧」をマナー違反とする啓蒙広告が貼られている。
どちらもどこか物憂げなイマドキの都会の若い女性の目線からのコピーが手書き
文字で書かれていて、モデルの女の子の表情も印象的だし、視界に入り、しかも
ちゃんと記憶に残っていて、うまいポスターだなあと思っていた。
東急電鉄のプレス資料より
東急電鉄によると、この2種類のほかにも「整列乗車」「車内混雑時の荷物の
持ち方」など全8種類のマナー広告を展開する計画らしい。
ネットや車両内での動画広告とも連動しているのだそうだ。
いろいろ工夫が必要な時代なんだなあ。
東急電鉄:わたしの東急線通学日記 「車内化粧(マナーダンス)篇 30sec」
https://youtu.be/jX5vMMpHsXc
ところが、このマナー広告「電車内での化粧」について、女性からの抗議が噴出し、
炎上しているというので驚いた。
「『迷惑』ならまだしも、『みっともない』とは何事だ!」
「鉄道会社に『みっともない』とまで言われる筋合いはない!」
「乗客の自由」
「男性社会の女性への抑圧だ!」
「『飛沫物や匂いが他の客への害となることもある、車内での使用は控えて』
で済ませればいいものを、『都会の女はみんなキレイだ』というセクハラや、
女性への抑圧をわざわざ惹句に挟んできた理由は何?」
「出てくる言葉が『そんな女性は(化粧をしても)美しくない』『みっともない』
でしかないのなら、その言葉はハラスメントだろう」
唖然とする。
「みっともない」の上塗りである。
日々にせわしなく押し流されて感性が磨滅しつつある人たちへ、せっかく
「それ、みっともないわよ」と教えてあげても、もう何が「みっともない」かが
理解できないような人がこれだけいるんだなと思った。
電車の中で化粧なんて、寝起きで胸元のはだけたパジャマ姿を人前で晒して
いるのとたいして変わらない。
本来なら、
「部屋でやりなさい!」
と、一言怒鳴られておしまいにされなければならないようなことだ。
「粉が飛ぶ」とか「眉ペンが目に刺さるのでは」とか、そういう問題もないとは
言えないが、はっきり言って些細な話。
もっとも重要なことは、
「自室あるいは洗面所のような、本来は超超私的空間でやるようなことを、
大勢の集まる公共の場に持ち込むだらしなさを考えなさい」という部分なのだ。
ただでさえ混雑する車内で、みんな、極力他人の迷惑にならないよう、
不愉快さや誤解を与えあってケンカが起こらないよう、それなりに神経を使って
自己を譲りあいながら時間を過ごしている。
それは、電車が公共の交通機関だからだ。
そんな場所に、「乗車賃払ったからなにをしてもいいでしょ」と言わんばかりに
「洗面所の私」を堂々と持ち込むのは、公共の場を私物化する行為である。
立派なマナー違反だ。
「男性社会による女性への抑圧」というジェンダーフリーな意見もおかしい。
これは、「女がそんなことをするのはみっともない」という性の問題ではない。
もし、男が電車内で髭を剃りはじめたり、歯を磨きはじめたりしたら、
絶対に大勢が不愉快だと言って激怒するだろう。
ただし、今回、マナー広告に抗議した女たちは何も言う権利はない。