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泉美木蘭
2016.9.18 13:20

日本人は生死の議論ができるのかな

ベルギーで17歳の末期患者の安楽死が行われたそうだ。
ベルギーは、世界ではじめて安楽死の年齢制限を全廃した国で、
新法律のもとではじめての未成年者の安楽死ということで、
世界的な
ニュースになったようだ。

ベルギーの安楽死は、たとえ子供であっても、
あくまでも末期患者本人の
「死を選択する権利」
を尊重することになっており、本人が安楽死を希望
すれば、保護者はその意向に従わなくては
ならない。
法案成立当時、4人の子供の母親でもある小児腫瘍医がこう語っている。

「癌などの末期患者の子供は、精神的な成熟が早い。自分の生と死に
向き合い、どのように死にたいかを深く考えている。
親より勇気のある子供もいる」


ほかにも

「子供は親のために生きるものではない」
「終末期の病気の子供に、分かりやすく、少しずつ話をするのは医師の義務」

などの意見もあり、果たしてこんな法案に賛成してよいのか、という迷いは
抱きつつも議論を重ね、もちろん強硬な反対派もいるが、最終的には
「ほかに末期患者の子供たちの絶望的な苦痛をやわらげる方法がない」
という流れで、国民の74%が支持する新法成立となったようだ。

ただ、すでに条件付きで未成年者の安楽死を行ってきたオランダでは、
ダウン症など障害を負って生まれた新生児が、「親の同意だけ」で安楽死
させられているという問題が発生している。
だから、正直、ベルギーの「年齢制限全廃」って、恐ろしい法律だな、という
感覚がある。詳しくは調べていないからわからないけれども、実質、新生児
でも安楽死させられるための法整備なんじゃないか、と。
今後どのように法律が運用されていくのか、気になる。

それにしても、ベルギー人の発言の内容を聞いていくと、かなり現実的?
というか、すごい国民性だなと思ってしまった。
日本なら、まず
「子供に死の選択をさせるなんて信じられない!」
「子供を殺すとはなにごとか!」
という脊髄反射のヒステリーが起きて、一瞬でかちかちに硬直してしまい、
そのまま議論にはならなそうだ。
以前、「下流老人の安楽死」が話題になった時も、まず傾聴する姿勢なし、
熟考する
こともなしで、いきなりひきつけを起こしたように激昂して、

「ひどい!」「殺すな!」「ナチスだ!」「命は大事!」「老人を尊敬しろ!」

と一斉にバッシングを起こそうとする人が大勢いた。
《議論以前》の状態にしかならないのだ。
みなさんご苦労なくお暮しになっておられ、老人の孤独死なんぞ他人事、
日々すこやかに平和でいらっしゃるのだなと思った。
こういった状態だから、そもそもバッシングを恐れて『安楽死』など議題に
のせる人が登場しないかも、という空気すらあるかもしれない。

私自身も甘い考えのある人間だけど、日本人は、人の生死に関して
よくよく考えて発言しているのだろうか、疑問に感じることが多い。
知識人でも、「そんな浅はかなこと気楽に言っちゃっていいわけ?」
と思うようなことをさらりと言う。

「医療の発達」があるから男子がちゃんと生まれますよ、とかね。
赤ちゃんならまだ人権意識ないから親元引き離せますよ、とかね。
日本人に、人の生死の議論はできるのだろうか・・・。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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