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泉美木蘭
2016.8.27 08:32

特別立法は天皇陛下のお気持ちを踏みにじる行為

「皇室典範を改正するのは大変な時間がかかる」
「まずは特別立法で一代限りの譲位をしていただけばよい」
というような意見をなんの憚りもなく言う人々がいますが、
天皇陛下のお言葉を、読んだ端から忘れているか、丸めて捨てている
としか思えません。
そこで、改めて普通の国語力でお言葉を読めばどのように解釈される
のかを論じたいと思います。

「私自身が高齢となったので」という私的なテーマではない

まず陛下は、最初の段落で、次のように話のテーマを打っておられます。

社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような
在り方が望ましいか、天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的に
触れることは控えながら、私が個人として、これまでに考えて来たことを
話したいと思います。


「社会の高齢化」という言葉をわざわざ使って「天皇もまた高齢となった場合」
を想定してのお話しということは、「私自身が高齢となったので」という私的な
話ではなく、
今後の高齢化社会の中で、天皇という地位を継いでゆく人々も、もちろん
高齢となってゆく見通しなので』
という、将来全体を見渡したスケールで話し
ますよ、
という意味になります。

また、「現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら」は、お立場上の

一言でもありますが、素直に読めば、直前の将来を見渡した文章にかかって、
『制約がなければ、本当は現行の皇室制度に触れて、将来の皇位継承が、
いかに切迫した状況であるかを訴えたいのですが』
という皇室典範改正を望まれているお気持ちがそのまま含まれていると読み
取るのが普通です。

◎主語が「天皇」と「私」、明確に使い分けられている

陛下は、全般にわたって、「私は」「私が」という主語と、「天皇は」「天皇が」
という固有名詞を明確に区別されています。

28年間の天皇としての歩みを振り返られる部分や、手術をなさり、将来を
憂慮されたことなどは、「私」としての主語で、ご体験を踏まえて切々と心情を
語っておられ、さまざまなシーンが私たちの記憶にある報道の映像や、写真
などと重なり、その物語がよみがえるようです。
ところが、後半では、主語が「天皇の」「天皇が」となり、天皇の制度全般を
客観視して語られています。

天皇の高齢化に伴う対処の仕方が、国事行為や、その象徴としての行為を
限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます。
また、天皇が未成年であったり、重病などによりその機能を果たし得なくなった
場合には、天皇の行為を代行する摂政を置くことも考えられます。しかし、この
場合も、天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終
わりに至るまで天皇であり続けることに変わりはありません。 

天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られた

ように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます。

更にこれまでの皇室のしきたりとして、天皇の終焉に当たっては、重い殯(もがり)

の行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き、その後喪儀に関連する行事が、1年間

続きます。

もしも陛下が「自分一代限りの譲位を願っている」「疲れてしまい、退位したい」
という私的なお気持ちだけを表明されていらっしゃるのであれば、
この部分も終始『私は』『私が』『私の』という語りかたで通すことができるはずで、
わざわざ『天皇』という主語で、天皇全体について客観的な説明をすることは
ないでしょう。
引用一行目の「天皇の高齢化に伴う対処の仕方が…」のところでは、
もっとご自分にひきつけて「このように高齢となった私」を語る言葉となるでしょうし、
「天皇の終焉」という言葉にはじまる
殯(もがり)の行事への言及も、ご自分の
体験として、昭和天皇崩御の際のご自身の思い出を踏まえた私的な言葉で
お話しになってもよいはずなのです。

しかし、陛下はそのような私的な心情ではなく、あくまでも、ご自身の体験を
ふまえて見据えた今後の将来、ご自身が崩御されたあともつづく、天皇を頂く
日本の将来を見通してのお話し
をして下さっているのです。

◎一代限りの譲位などお望みではない。皇室典範改正が絶対

ここまで読んだところで、陛下は、ご自分だけの譲位、特別立法での一代限り
の譲位の法律を作ってほしいとおっしゃっているの
ではなく、
あくまでも今後の皇室全般、皇位継承全般の制度に関して、時代に即して
見直してもらいたい、つまり、皇室典範を改正してもらいたい、とお考えである
ことは明白
です。
最後にはこう重ねておっしゃっておられます。

始めにも述べましたように、憲法の下、天皇は国政に関する権能を有しません。
そうした中で、このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ、
これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の
未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、
安定的に続いていくことをひとえに念じ
、ここに私の気持ちをお話しいたしました。 
国民の理解を得られることを、切に願っています。

ご自身だけが退位したいということであれば、「我が国の長い天皇の歴史を
改めて振り返……ると、譲位してきた天皇が何代もいる」ということのほうが
重視されてもよいわけで、
しかし陛下は最後にあえて、「皇室がどのような時も国民とともにあり…」と
《皇室と国民の関係》に触れられていることをもっと重視しなければなりません。

『現行の、国民によって制定された皇室制度のままでは、
女性皇族は結婚すれば皇籍を離脱してしまい、独身を通さない限り人数は
減ってゆき、皇位継承資格のある最年少の悠仁親王殿下に、もし将来、
男子が生まれなければ、そこでお家断絶となり、皇室は滅びる。
国民とともにこの国の未来を築けなくなる』

のです。
同様に、
象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくこと

を最後にまとめられています。
これは決して、ご自身の天皇としての人生を私的に語ったのではなく、

『今後、天皇となる者へ目線を向けて、安定的に「国民と寄り添う象徴天皇」が
つづけられる方法、そして、それが次世代、またその次世代へと安定的に継承
されていくには、どのように皇室制度を変えればよいか』

それを国民が理解して取り組んでくれることを切に願っておられるのです。

天皇陛下は、国民への深い信頼と敬愛をもって》いると言ってくださっています。
本来ならば、そのように信頼していただいている国民の側から、自発的に信頼に
お応えし、考えて差し上げなければならなかったのだから、
自らすすんでここまで強いお気持ちをわざわざ表明するような
ことは、なさりたく
なかったはずです。

その上に、「特別立法で一代限りの譲位」などという方法に逃げるのは、
陛下のこの渾身の強い強いお気持ちと、国民への信頼・敬意を、裏切り、
踏みにじる行為でしかありません。
これまで陛下のことをなにも考えてこなかったことを反省もせず棚上げして、
「お疲れなんでしょ、じゃああなた御一代だけ特別に退位させてあげますよ」
と言って侮辱する行為なのです。あるいは
「とりあえず後で制度は考えますから、おやめになってもよいですよ」
と言って軽率にあしらう行為なのです。
そんな失礼な行為を、なぜできるのですか?

絶対に、皇室典範改正、それ以外に、陛下のお気持ちにおこたえする形は
ありません。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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