ゴー宣DOJO

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泉美木蘭
2014.11.17 02:40

深夜2時のオムレツ

週2回バイトしている音楽バーは、深夜2時に閉店する。
店は46年の老舗、マスターDJも69歳の高齢となり、
季節の変わり目になると体調の波があるようで、
このごろはあまりお店に出てくれなくなり、
ママとスタッフ1名の2人だけで頑張ることが多い。
先日は、うっかり夕飯をとりそこねて18時半入り、
そのままバタバタして閉店まで空腹のままだった。

こういうときに嬉しいのが、
店の目の前にある、和食喫茶だ。
こっちはちょうど深夜2時に開店する。
店は44年目、名物ママは68歳。
厨房には69歳のお父さんがいて、
町のみんなのためにおいしいご飯を作ってくれる。

この日も閉店後、あまりにお腹がすいて、
和食喫茶にかけこんだ。
今夜の「500円サービス定食」はオムレツ!
こんばんはー・・・と扉を押し開くと、
からからからんとベルが鳴り、いつものママが・・・

と思ったら、いきなりテレビカメラがこちらを向いており、
もこもこしたでかいソーセージみたいなマイクをむけられる。
NHKの撮影クルーだという。
和食喫茶から、街の人間模様を追っているらしい。
聞けば、地上波でかなり観られる時間帯のドキュメント番組だった。

「そうですか。じゃ、帰りまーす!」
あわてて踵を返そうとしたけれども、
「あっ、こちらさんはね、目の前の46年やってる店で…」
なんて感じで捕まって、腕章をつけたクルーに取り囲まれてしまい、
そのまま、
深夜2時にオムレツを注文するところも、
深夜2時に割り箸を割るところも、
深夜2時に割った箸をかるく味噌汁につけて啜るところも、
深夜2時にオムレツにかぶりつくところも、
深夜2時に「ママ、マヨネーズちょうだい」と頼むところも
あますところなく撮影されてしまった。
しまいに

「この時間にあたたかいお味噌汁と、ふっくらしたご飯が
食べられるお店はなかなかないし、ホッとしますよね」

深夜2時にサービス精神が出て、コメントまでしてしまった。
深夜2時もやばいが、わたしは箸の使い方が下手なので、
こんなのもし使われたら恥ずかしいなあという気持ちでいっぱい。
オムレツなんか食べた気がしなかった。

翌日はうちの店のほうへ取材が入ったらしい。
「46年の音楽バー・深夜2時閉店」と「44年の和食喫茶・深夜2時開店」
という組み合わせがおいしいのかもしれない。
ディレクターに「昨夜のスタッフさんはいないのか」と
聞かれたそうだけど、行かなかった。
深夜2時にオムレツ食べる姿をNHKで流されるだけでもやばいのに、
これで顔を出したら・・・

サービス精神からまたオムレツ食べてまうやろー!


いつもは、まっすぐ家に帰ってすぐに寝るのよ。
深夜にオムレツ食べるなんて滅多にないことなの。
この日は、どーしてもお腹が減りすぎて、耐えられなかったという、
例外中の例外なの。

さ。ライジングの原稿にもどろーっと・・・。
泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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