ゴー宣DOJO

BLOGブログ
トッキー
2018.2.12 11:53

『新・堕落論』と市川崑監督映画『こころ』

やっぱり見事な、
リボンの騎士さんの
『新・堕落論』の
感想をご紹介!



【新・堕落論】は発売されて程なくして
入手し、さっそく一度読み、
その後何度か読んでいるのですが、
なかなか感想を書けずにいました。
まず目次を見て「変わっているなぁ」と
思ってしまいました。第一章から最終章まで、
「太宰治のトカトントン」とか
「日本はいつも八つ墓村」とか
「“平定”こそが“平和”である」とか
「弱者のルサンチマンゆえに」など、それら
章のテーマがそれぞれにどう関係し、
そして繋がるのか、何の予備知識もないと
何について書かれてある本なのか、目次を
見ただけではなかなか想像できないのでは
ないかと思ったからです。

でも読み進めていくと、なかなか想像でき
なかったそれらの関連性について、
一章ごとのテーマすべてが見事に繋がって
いることがわかってくる。それぞれに
通底しているものこそが堕落であり、
ページをめくるたびにその実感は
はっきり明確になっていくわけですが、
それはとても厳しく、恐いことでもあった
のだけれど、カタルシスさえ感じました。
そして程なくして気づくのです。
「ゴー宣は、そもそもが
堕落論なのではないか」と。

どこの図書館にも置いてあるような
古今東西の古典文学には、さまざまな形で
「人間は愚かな生きものだ」ということが
書かれてあります(たいして読んでいない
ので、我ながらエラそうですが)。
社会を見つめ、それを論じることは、
人間を考え、知ろうとしなければできない
ことだろうと思います。だからこの度の
【新・堕落論】とされたゴー宣スペシャルは、
文学や哲学の視点を意識的に交え、
それらと極めて自然に融合されたのでは
ないでしょうか。

一読者として勝手にも、とくにお気に入りの
章を挙げさせていただけば、文学に関する章の
「太宰治のトカトントン」「坂口安吾の“堕落論”」
「夏目漱石の“こころ”」と、映画に関する章の
「“マイノリティ・リポート”と共謀罪」
「オーディエンスかロボット天皇」でした。
今日はその中の第15章「夏目漱石の“こころ”」
について、【新・堕落論】には関係ない内容に
なってしまうかもしれないのですが、
少しだけ書かせていただこうと思います。

一昨年くらいに、近所のTSUTAYAに
「こころ」(1955年)のDVDがあったので
レンタルして観てみました。
観てみようと思った理由は、監督が、
何度観てもまったく飽きない
「犬神家の一族」(1976年)の市川崑で
あること、あとは名優の森雅之(大好きなんです)
が主役だからです。
若き日の作品とは言え、モノクロの市川崑らしい
美しい映像による明治がそこにはあり、
そこに暮らす明治の人々の息吹さえ
感じられました。
「先生」を演じる森雅之(1911年生まれ)は、
小説家有島武郎の長男であり(森が12歳の
ときに、父親が心中により死去)、
母方の祖父は西南戦争に従軍し、
日清戦争にも出征した陸軍将校。自身も
京都大学の哲学科を中退しており、生まれや
育ちのよさと知性が滲み出ていて、寡黙で
翳が誰よりも似合うこの人なくして
この作品は成立しなかったであろう
というくらいの適役でした。

だからそのときもそれなりに楽しめたのですが、
それでも一昨年に観たときはなぜKが自殺
したのかとか、そして先生自身もなぜ死を
選んだのかとか、わからなかったりピンと
こない場面がいくつもあり、物語にも
登場人物にも最後まであまり感情移入が
できなかったのも事実です。

そして今回【新・堕落論】の第15章を読み、
「なるほど、そういうことだったのか」と、
【新・堕落論】を片手に再びDVDを
観てみたところ、見事にどのシーンも
ストンストンと入ってきましたし、
さりげなく散りばめられている細かな
伏線もよくわかりました。

今回やっとわかったわけですが、
【新・堕落論】にあったように、
市川版「こころ」は監督独自の解釈も
含ませながら、「“金銭と恋愛をめぐる
エゴイズム”と、“近代”という堕落」が、
原作に忠実にしっかり描かれていました。
そしてその市川版「こころ」がどれだけ
名作だったかということにも
【新・堕落論】のおかげで気づくことが
できましたし、映画の隅々まで
堪能でき楽しめました。

「映画は何も知らずに観ても面白い。
知ってから観ても面白い。観てから
知っても面白い」というのはその通りだと
いうことがよくわかりました。



自己慰撫ができないから読めない
という人も多いのでしょうが、
読めば確実に感性が豊かになり、
人生が豊かになる本が
『新・堕落論』だと
言えるでしょう。
トッキー

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