安倍首相の自衛隊加憲論に接して、
三島由紀夫の「憲法改正」批判を思い出す。
「憲法上、第1章と第2章とが到底民族的自立の見地から
融和すべからざるものであり、この民族性の理念と似而
非(エセ)国際主義の理念との対立矛盾がエモーショナルな
国民の目前に、はつきり露呈されることが何より緊要である。
このことはグロテスクな誇張を敢(あえ)てすれば、
侵略戦争の宣戦布告をする天皇と、
絶対非武装平和の国際協調主義との、
対立矛盾を明示せよといふのではない。
むしろその反対である。
もし現憲法の部分的改正によつて、
第9条だけが改正されるならば、
日本は楽々と米軍事体制の好餌(こうじ)となり、
自立はさらに失はれ、日本の歴史・伝統・文化は、
さらに危殆に瀕するであらう。
われわれは、第1章・第2章の対立矛盾に目を向け、
この対立矛盾を解消することによつて、
日本の国防上の権利(第2章)を、
民族目的(第1章)に限局させようと努め、
その上で真の自立と平和主義を、
はじめて追求しうるのである」
(「問題提起〔日本国憲法〕」)。
今から半世紀ほど前、既に「米軍事体制」に
より深く組み込まれてしまう事態への危機感から、
憲法改正の“やり方”次第では
「自立はさらに失はれ、日本の歴史・伝統・文化は、
さらに危殆に瀕するであらう」と、警鐘を鳴らしていたのだ。
その危機を、我々は眼前に見ようとしているのかも知れない。