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高森明勅
2017.9.5 22:00

マルクス主義歴史学の終焉

戦後の歴史学の主流はしばらくマルクス主義歴史学だった。

そのマルクス主義歴史学の牙城だった歴史科学協議会(歴科協)。

その機関誌は『歴史評論』。

同誌9月号が「文献史学と日本古代国家形成史の新展開」
という特集を組んでいる。

これを読むと、
確かにマルクス主義歴史学は終わった」
と実感できる。

各地の国家の諸形態に対するモンテスキューの
飽くなき関心を継承
しつつ、それを理論化したヘーゲルの国家論、
それをさらに生産関係を軸に展開させたマルクス・エンゲルスの
国家の起源に対する説明は、
日本の戦後歴史学における国家形成論に
とって強靭な座標軸として
機能し続けてきた。

しかし、1980年ころからは、
価値の多様化のなかで当該の理論を前提にすることは
難しくなって
いる。
定説的な理論的基盤が失われた現在、
日本古代国家形成論というテーマについて総体的に論じることは、
従来にもまして困難になっている」
(北康宏氏「
国家形成史の過去と現在」)

「東アジア古代史が考古学・文化人類学と
連携しつつ新たな国家形成史を発信することは、
けっして不可能ではない。
わたしたち歴史学(文献史学)は、
エンゲルス理論から早々に脱却し、
国家
形成史研究における考古学からの誠実な
呼びかけに対して真摯に向
き合うべきである。
その際に重要なのは、
史料に対して厳密な批判を加え、
精確な読解をおこなうという自らの学問上の特性を生
かすことであ
ろう」(関野淳氏)

「(マルクス主義歴史学の基本文献とされて来た)
エンゲルス『家族・
私有財産・国家の起源』…はすでに
致命的な問題点を指摘されている。
そのため考古学では1990年代以降…文献史学でも
2010年代に入ると新たな国家成立史を構築する試
みが
開始されている」(廣瀬憲雄氏「5世紀をどう評価すべきか?
」)

文献史学における古代国家論や国家形成史論といった議論は、
ひところ停滞気味であったことは周知のことと思う。
この方面への提言は、もはら考古学分野の研究に負うことが
多くなった…何よりも、
論理的に歴史の流れを把握しようとする
マルクス主義歴史学の、
またそれの変容論理を日本や東アジア世界に
適合させようとする手
法の方法論的限界を、日本古代史界が認識した
ことが大きいのだろう」
(中村友一氏「
国家成立期の氏族・部と系譜」)

…今昔の感を禁じ得ない。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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