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切通理作
2017.1.30 10:41

大人としてすませておくこと

  昨日、小学生の子どもを持つ友人と話していて、彼が、電通で過労死した女性の問題についての連日の報道に「猛烈な違和感がある」と言うので「何に違和感があるの?」と訊いてみました。

 

 「企業に残業させるなと言う前に、親がやっておくべきことがあったんじゃないか」と彼は言うのです。

 会社から言われたことだからといって全部従うのではなく、無理な事は無理と口に出すことを教えていないから、素直すぎる子どもは成長して大人の現実に対応できなくなるのではないかと。

 

 僕は電通社内にいる当事者じゃないので、彼の言っている事がどこまで実状に当てはまるのかはわかりませんが、今日の新聞でも、電通がくだんの親御さんに、社内研修にまで参加してもらって再発防止に取り組むという報道があるのを読んで、僕は上記の友人に感化された部分はあるにせよ、いくばくかの違和感を覚えたのも事実です。

 

 「大人社会に親が首を突っ込んでくる前に、出来ることはなかったのか」と。

 もちろん電通自身もそうです。社員の親が出てくる前に、自分の判断で、押しつけていい事と、いけないことの判断は出来なかったのか。今後も、社員だった人の監視がなければそれは出来ないということなのか。

 

 いま読んでいる千葉麗子さんの自伝的エッセイ『ママは愛国』(KKベストセラーズ)の中に、修身の教科書の教えについて書いてあるくだりがあるのですが、「自分のことは自分でせよ」のところで、過去の出来事を思い出して書いています。

 戦隊ヒーロー『ジュウレンジャー』でピンクを演じた千葉さんは、当時バラエティで自身を表すピンク色の衣装を選ぼうとしたら、共演のタレントと奪い合いになってしまったそうです。

 マネージャーに介入を頼んだら「そこにはお前にしか入っていけないんだから、お前が解決してこい!」と言われ、大変な思いをして、ピンクの衣装を勝ち取ったそうです。

「こういう積み重ねがあって、私はどんどん鍛えられていきました」(『ママは愛国』より)

 

 もちろん、ケースバイケースであることは言うまでもありません。千葉さんのマネージャー氏だって、ここぞという時には介入を選ぶこともあるでしょう。

 

 しかし本人が亡くなった後で、家族が社会に向かって保護者として「働き方」を監視するというのは、遅きに逸した感は否めません。

 

 娘の死で同様な事は最後にしてほしいという親御さんの気持ちもわかるだけに、難しい問題だとは思いますけれども。

 
 ※千葉さんの本には、後半天皇陛下のあり方についての記述もありますので、明日にはその感想を書きます。

 

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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