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倉持麟太郎
2017.1.27 00:15

国会論戦のゴングとメディアの役割

昨日から補正予算の予算委員会での論戦が始まった。実質的に、今国会の言論によるバトルのゴングが鳴ったといってよい。

野党は、細野氏と山尾氏を中心に生前退位の問題や共謀罪の問題を質問。細野氏は、「象徴天皇とは?」というところからスタートし、皇室の権利・自由論まで、幅広く質問していたが、首相は予想通りの逃げとはぐらかし。山尾氏による共謀罪の質問は、従前「共謀罪」として国会提出してきたものを「テロ等準備罪」と衣替えしている欺瞞を追及。これにも、金田法務大臣と首相の”最強暖簾に腕押しタッグ”で、論戦の的がぼやかされてしまった。他には、前原氏の教育と貧困の問題提起も、国会ですべきど真ん中の政策論議で見ごたえがあった。

今回は、この論戦の内容には、(踏み込みたいが)踏み込まない。
指摘したいのは、この予算委員会についての民放メディアの放送が極めて低調であったことである。
確認した限りで、いわゆる夜のニュース、報道ステーションが安倍総理対山尾議院を大きく取り上げた以外は、NHKの9時のニュースがちらっとやったくらいである。日テレ、TBS、フジテレビはどうした。

国会の予算委員会は朝から夕方までやっている。最近では、総理入りであればNHKで放映されることもあるものの、毎回はやらない。
すなわち、働いている大多数の人間(特に「お父さん」と呼ばれるサラリーマン層)には、時間的に国会論戦を生でみることは不可能である。見れたとしても、こんな長い時間、質の低い質問も多々ある中で、ずっとは見ていられない。
そうすると、触れるとすれば夜帰ってきた後のニュースである。
もちろん新聞もあるし、今はすべての国会審議を衆議院インターネット中継なるもので、以前のものも含め見ることができるが、こんなのをいちいち見るほど時間も情熱もないのがふつうだ。
にもかかわらず、民放の夜のニュースが予算委員会について一切放映しないというのはどういうことだ。

国家権力は、我々国民からの信託に基づいてその権力を行使しているがゆえに、その権力行使が適切に行われているかを監視しなければならない。しかし、我々個人は日々の生活が目の前にあるため、四六時中権力を監視することができない。それを、我々に代わって、主権者の権能行使を補完する形で権力監視をするのが、職能集団としてのメディアである。
特に、今国会は、生前退位の問題では、「国民の総意」と陛下のご意思をつなぐ場としての国会であるし、その他の法案についても、国会で何が起こっているのかがわからなければ、我々が一時だけ権力に運用を委ねているだけの”権力”の行使のされ方を監視する場がない。
これでは、銀行にお金を預けているが、そのお金があるかどうかもまったくわからず、引き出すことなどまったくできない、というのと同じだ。
国会での議論が国民に伝わらなければ、国民主権も画餅である。
我々が国民としての権能を行使する前提を欠く。

国会と国民、ひいては国民主権の架け橋となるはずのメディアが、一切国会論戦を崩じないというのは、異常事態である。

共謀罪も含め、今国会は、我々の自由が制限されるかもしれないということ、すなわち、我々の社会が個人の自由についてどれだけ意識の高い社会かを問われる国会なのである。
メディア自身が、自分たちの権利自由が削られて行っていることにナイーブすぎる。
以前も書いたが、我々の自由という領域には、自明のライン・外延がない。どのラインを越えてしまったら自由がなくなる、ということが明らかではない。
したがって、自由のラインを後退させれば、そこが我々の自由の境界線になる。
つまり、自由のために常に個人は戦わなければならない。それこそが憲法という権利の法典の中にあって国民に要求を課している憲法12条にいう「不断の努力」である。

メディアが国家権力を監視するという構造は風前の灯である。
メディアをエンカレッジし、共闘するためにも、今度は我々が適正な目でメディアも監視するという意味で、今国会についての報道を注視しよう。

倉持麟太郎

慶応義塾⼤学法学部卒業、 中央⼤学法科⼤学院修了 2012年弁護⼠登録 (第⼆東京弁護⼠会)
日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事。東京MX「モーニングクロ ス」レギュラーコメンテーター、。2015年衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考⼈として意⾒陳述、同年World forum for Democracy (欧州評議会主催)にてSpeakerとして参加。2017年度アメリカ国務省International Visitor Leadership Program(IVLP)招聘、朝日新聞言論サイトWEBRONZAレギュラー執筆等、幅広く活動中。

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