天皇陛下のご譲位を巡る問題は勿論、政争の具にしたり、
与野党激突的な展開があってはならない。
皇位の尊厳を汚し、「国民統合の象徴」としてのお立場を
揺るがすことになるからだ。
だが、既に陛下のお気持ちが明らかにされ、
圧倒的多数の国民がそのご意向に添おうとしている中で、
政府だけが真面目に応えようとする姿勢を見せない
(具体的には陛下がご譲位を望まれているにも拘らず、畏れ多くも
「いやいや、勝手な譲位は認めない」と押し返しているに近い)場合、
それを厳しく批判するのは、責任ある野党の当然の責務だ。
その意味で先頃、民進党の野田幹事長が、政府が設けた
有識者会議のあり方を批判したのは、極めて適切だった。
「(陛下の)意に反する人を呼び集めるやり方に強い違和感を覚える。
国民世論からどんどんかけ離れていく」と。
これに対し産経のエース記者、阿比留瑠比氏が
「政争の具にするな」という奇妙な文章を書いている
(11月24日付)。
「そもそも、政府が最初から陛下のお言葉とぴったり一致した議論を
誘導するのであれば、有識者会議はもとより必要ない。
『天皇は国政に関する権能を有しない』と定める憲法4条とも
矛盾してしまう」と。
阿比留記者は、野田氏の重要な指摘を敢えて無視している
(あるいは理解できなかったのか)。
8月8日のお言葉は“内閣の責任において”公表されたという事実だ。
政府が自らの責任で(それに同意して)、陛下がご譲位を望まれている
お気持ちを全国民に(更に海外にまで)伝えた以上、当然ながらその
責任を果たさなければならない。
つまり、政府は「(自らの責任で公表した)陛下のお言葉と
ぴったり一致した」対応をする以外ない。
にも拘らず「(陛下が)おっしゃった言葉と全く違う」方向に
向かっているから野田氏は批判したのだ。
既に8月8日に結論は出ている。
よって「有識者会議はもとより必要ない」。
ただ、陛下のお気持ちを実現する法的整備をより万全にすべく、
細かな実務上の検討を行う為なら、設けても良い、という話。
また、内閣の責任でお言葉が既に公表されたからには、
その実現を図るのは内閣自体の課題だ。
「天皇は国政に関する権能を有しない」からソッポを向いてよい
という結論にはならない。
それとも阿比留氏は、陛下のご意向に従うこと自体が憲法に
「矛盾」するとでも考えているのか。
産経のエース記者がこんな“悲鳴”のような文章を書いたという事は、
野田氏の批判がそれだけ「痛い所」を衝いたからだろう。