「こち亀」を終了させるとは驚いた。
ペンを持てなくなるまで描くかと思っていた。
毎週連載で200巻までとはよく根気が続いた。
わしのような飽きっぽい者からすれば、人間技ではない。
自分の意欲と人気投票、どちらかが崩れたら連載は続かない。
続けたいという意欲があっても、人気投票が悪ければ、
終わらせられる。
人気投票が抜群にあれば、逆に終わらせたいと思っても、
雑誌のためには難しくなる。
「こち亀」はもはや国民漫画とまで言われるようになった
から、終わらせるのも、作家・編集者の双方でジレンマが
あっただろう。
けれども他に描きたいものがあるなら確かに限界だ。
70歳までならあと10年しかない。
わしもあと10年で何を残すかといつも考える。
案外、80歳まで描いているかもしれないが。
『東大一直線』『おぼっちゃまくん』『ゴーマニズム宣言』、
今は『大東亜論』を完結するまで描きたいと思っているが、
まだ足りない。
まったく違うタイプの漫画も描きたい。
秋本くん(二人で呼ぶときは「くん」だ)はデビューが
同じ年で、担当編集者も同じだった。
今は集英社の代表取締役になっている。
秋本くんが60歳過ぎて新作に挑戦するのは、楽しみだ。
名前でガンガン宣伝してもらえるだろうが、漫画は名前の
権威も、宣伝による洗脳も、全然効かない。
恐ろしすぎる世界だから、今こそ素っ裸で挑戦する最後の
チャンスだろう。
なにより60歳過ぎてまだ健康というのが神の恵みだ。
兎と亀に例えたら、わしが兎で秋本くんが亀と思って
いたが、どうやら二人とも長距離マラソンのタイプだった
ようだ。
まだ過去を振り返るのは早い。レースの途中だ。
わしはようやく折り返し地点を回ったと思っている。
お互い、頑張ろうじゃないか。