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高森明勅
2016.4.5 07:02

どこにでもある「阿漕な」話

私、実は泉美木蘭氏のブログの隠れファンである
と言ってしまうと“隠れ”じゃなくなるか)。

ひたすら笑わせてくれたり、ちょっと考えさせてくれたり、
私が全く知らない世界を垣間見させてくれる。

時折、美しい写真を掲げてあるのも、魅力的だ。

先日の泉美さんの地元の「阿漕(あこぎ)」
という地名を巡る
ブログも、興味深く拝読した。

阿漕と言えば「どこまでも強欲無慈悲で、あくどいさま」を
意味する語。

禁漁区の阿漕ヶ浦(三重県津市の海岸)
でしばしば密漁をして
捕らえられた漁師の伝説に由来すると言う。

だが泉美さんによれば、地元で語られている伝説では
「全然“
阿漕”じゃない」と。

捕まった漁師(阿漕の平治)はひたすら病床の母親の為に、
やむなく密漁を重ねていてたのだとか。

こうした、よく知られた情報と“真相”のギャップは、
かなり普遍的な話ではあるまいか。

テレビのワイドショーや週刊誌などで、
さんざん悪人として叩かれて
いる人物も、その実像は「
阿漕の平治」のように、かなり違っている
のかも知れない。

あるいは、歴史上の人物や事件への評価の場合も、
同様ではないか。

そうした複眼的な視点をどこかで持ち続けておく必要がある。

に、一般に悪意の塊のような人間がめったにいないのと同じく、
全て善意だけという人物もそんなにはいないはず。

だから平治伝説を史実と仮定しても、
最初は純粋に母親の為だったの
が、
次第に我欲に溺れて密漁を繰り返した可能性も当然、考慮に入れて
おかねばならない。

その同一の事実でも、地元の同情的な視点から見れば
「母親思いの可哀想な平治」
像となり、一方、外部の冷淡な眼差し
からすると「“阿漕な”
漁師」となる。

そのどちらも真実とも言えるし、真実からかけ離れているとも言える。

人間は単純ではない、という当たり前でも見落とされがちな事実を、
改めて考えさせてくれるブログだった。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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