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高森明勅
2015.11.19 08:49

十代の読書

何でもかんでも“昔は良かった”式の言い方は嫌いだ。

そもそも実証的な根拠が乏しい上に、「昔」
がやたら美化されている
としか思えないケースがしばしば。

違和感がありすぎ。

しかし近年、若い世代の読書力が低下しているような“印象”を受ける
これも印象に過ぎないのだが)。

そこで参考迄に、わが十代の読書の思い出の一端を披露する。

それも、少し客観性を持たせる意味で、私が人から勧められた本を
紹介する。

私自身が自分で選んでこんな本を読んでいた、
というのでは“
高森の特殊ケース!”

で終わりになりかねない。

そうではなく、人からの勧めなら、
およそ当時の一般的な読書水準を示唆していることになるのでは。

まず中学時代。

同級生から勧められた2冊。

梅棹忠夫の『文明の生態史観』(中公叢書、後に中公文庫)。

これは読み易く、刺激的だった。

今も新鮮さを保っているはず。

小田実『世直しの倫理と論理』(上・下、岩波新書)
ユニークな文体で、
思想的にもそれなりに一本、筋が通っていて、
面白く読んだ。

今時の左翼は、ちゃんとこれを読んでいるのかな。

父から勧められた中の1冊が、
刊行直後の林房雄『
大東亜戦争肯定論』改訂版(番町書房)。

同書はロングセラーで、今は中公文庫に収める。

中学2年生の頃、箱入りの750頁はやや分厚く感じたが、
枕元に置いて毎晩、
ワクワクしながら読み進めた。

先頃、学習意欲旺盛な二十代の社会人が近代史を学びたいと言うので
貸し
たら、「難し過ぎます〜」と返して来た。

高校時代。

入学直後、3年生の先輩が「これ、面白いよ」と勧めてくれたのが、
その頃、
刊行中だった司馬遼太郎の『坂の上の雲』
(文藝春秋、
単行本で全6巻)。

司馬作品への入門となった。

高校2年生の時、詩人の父を持つ友人が、チャールズ・A・ライク
の『緑色革命』(早川書房)
を勧めてくれた。

1960年代後半から70年代初頭にアメリカで盛り上がっていた
カウンター・カルチャー(対抗文化)のバイブル的な本だった。

大学時代。

やはり入学直後、先輩から
「大学生なら、まずこれくらい最低限、読んでいないと」と
勧められたのが、
丸山真男『日本政治思想史研究』(東京大学出版会)

と『吉本隆明全著作集13 政治思想評論集』(筑摩書房)。

ちなみに、その先輩は右翼的な傾向の考え方の持ち主。

にも拘らず、こんな本を勧めるあたり、昨今とは“懐の深さ”が違うと
言うべきか。

以後、丸山真男と吉本隆明の本は結構、読んだ。

入学と同時に入った学生寮の寮監の先生からは、
大学生になったんだから、これくらいは読んでおくように」と、
ギボン『ローマ帝国衰亡史』(岩波文庫、全10巻)
フレイザーの『金枝篇』(岩波文庫、全5巻)を勧められた。

勿論、これらの本を、今の十代にもそのまま読め、
と言うつもりはない。

上記の本の全てがオススメという訳ではないし、
当然、
読むべき本のラインナップも、時代と共に変わって行く
その一方で、容易には変わらないものもあるが)。

でも若い頃、難しくても、すぐには分からなくても、
多少背伸びをしてでも、
とにかく価値のある(又はありそうな)
本を読む、
という態度を身に付けることは大切。

それは人生を豊かにしてくれる、
ちょっぴり素敵な習慣だと思うぞ。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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