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高森明勅
2015.4.27 16:28

武蔵野陵へ

晴天の平日、時間を作って東京・八王子市の武蔵陵墓地へ。

JR中央線で高尾駅に向かう。

天気が気持ち良いので、そこから歩く。

結構、遠い。

でも、徒歩でお参りする人の為に近道も整備されている。

但し、初めての人には、やや分かりにくいか。

以前、昭和天皇のご命日の1月7日に来た時は、
意外と参拝者が多かった。

今日はさすがに人影を見ない。

と、思っていたら、陵墓地の参道を奥の方から
初老の男女が歩いて来られた。

静かに会釈を交わしてすれ違う。

まず多摩陵(たまのみささぎ)に。

言う迄もなく、第123代大正天皇の御陵。

木々の間を爽やかな風が吹きすぎて行く。

空気が清らかだ。

鳥居をくぐり、二拝二拍手一拝。

ふと、大正10年の御製(ぎょせい)
「神まつる わが白妙(しろたえ)の 袖の上(へ)に かつうすれゆく
みあかしのかげ」を思い浮かべた。

世に知られている大正天皇の最後の御製。

この御製については、水原紫苑氏の評言がある。

「神をまつる天皇の白い衣の上に、
暗いうちはあかあかと輝いていた灯明の光が、
暁になって薄れてゆくという、痛いほど鋭利な感覚である。
実に繊細なうつろいさえ、神に向かう魂に刻まないではいられない
作者なのである。
その傷つきやすい心は詩歌人にとっての恩寵(おんちょう)
ちがいない」と。

この年の11月、皇太子だった裕仁(ひろひと)親王(後の昭和天皇)
が、天皇の権限を代行する摂政に就任されている…。

次に貞明皇后の御陵、多摩東陵(たまのひがしのみささぎ)にお参り。

そこから、武蔵野陵(むさしののみささぎ)へ移動。

晴れ渡る青空の下、緑したたる荘厳な昭和天皇御陵に参拝。

昭和35年の御製が心中に甦(よみがえ)る。

「さしのぼる 朝日の光 へだてなく 世を照らさむぞ わがねがひなる」
まさに天皇にしか詠めない御製。

続いて、隣の香淳皇后の御陵、武蔵野東陵
(むさしののひがしのみささぎ)にお参り。

帰り道、地元にお住まいらしい年輩の男性とすれ違う。

陵墓地を管理する職員の方と挨拶を交わし、
すっかり顔見知りのようだった。

清々しい気分で駅に戻る。

中央線に乗り、立川駅で下車。

ほど近い国営昭和記念公園にある花みどり文化センター内の
昭和天皇記念館に。

こじんまりとした施設ながら貴重な展示品が。

まず、「終戦の詔書」など詔書の原本。

そもそも、詔書の原本を間近に拝見出来る機会など、まずない。

まして、あの終戦の詔書の原本が、すぐ目の前にあるなんて。

知らないで訪れた人は驚くだろう。

昭和42年から使われた国産初の御料車(昭和天皇の専用車)
ニッサンプリンスロイヤルの現物も。

当時のわが国自動車製造技術の粋を集めて開発され、
技術者たちが精根を込めて造り上げた、世界で1台限りの最高級車。

今もピカピカだ。

但し、これは「プリンス」という日産のブランド車だから
やむを得ないことながら、
英語でザ・プリンスロイヤルと言えば
「皇太子」
の意味になってしまい、それが天皇専用車の名前
というのは、
いささかチグハグ。

更に、昭和天皇が宮殿でご執務に当たられていた、
机と椅子も現物を展示。

また、皇居の生物学御研究所内の様子も、現物を使って一部、
復元されている。

ご研究用の机や椅子、資料の整理棚などは実に質素。

その辺の大学の研究室の方が遥かに贅沢だろう。

ご執務用の机や椅子は勿論、それよりはずっと立派。

でも、しかるべき企業の社長たちの方が、
もっと豪華な物を使っているのでは。

国家の体面に関わる御料車などは最高のもの。

ご公務用の机や椅子は、並みの立派さ。

ご自身のご研究については極力、
倹約されていた。

そうした事実を、すべて現物によって、歴然と知ることが出来る。

係の人に依頼して、
昭和天皇87年のご生涯」というオリジナル映像を流して貰った。

昭和天皇のお声も聞けて、昭和世代には懐かしく、
平成世代には珍しい映像。

わずか10分ほどだが、一見の価値あり。

帰りに、記念品のボールペンを一本、求めた。

電車の中では、遠い日の光景を思い出していた。

大喪(たいそう)の礼当日(平成元年2月24日)、
冷雨の青山通りには、
昭和天皇のお棺をお載せした霊車を
見送る人々が、
何重にも列を作り、私もその中にいた。

お車が近づくと、人々は次々に傘を閉じ、頭を下げてお送りした。

あれは、遥かな昔のようであり、つい先頃の出来事のようでもあった。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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